りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012/11 世界の99%を貧困にする経済(ジョセフ・E・スティグリッツ)

アメリカ大統領選は民主党の勝利に終わりましたが、富裕層への恩恵こそが社会の活力を増すと主張してきた共和党との対立点は明快でした。とはいえ現在のオバマ政権の政策ですら、高齢層へのメディケア導入を除けば、「世界の99%を貧困にする経済」からの脱却は果たせてはいません。分厚い中流層を築き上げることが社会と経済の活力を増すとの視点に立った政策への舵取りはできるのでしょうか。一方で、中流層の総数には世界的な制限があるという分析もあるようなのですが・・。
1.世界の99%を貧困にする経済(ジョセフ・E・スティグリッツ)
「読んでおかなければいけない本」だと思います。自由主義市場政策が生み出したものは「1%の1%による1%のための政治」であり、中流層の空洞化と極貧世帯の急増でしかなかったという、ノーベル経済学賞を受賞学者による主張は説得力に満ちています。この世界をより公平で効率的な社会に転換することは可能なのでしょうか。著者は、最大のカギは「政策」を作り出す「政治」だと言い切るのですが・・。

2.サイバラバード・デイズ(イアン・マクドナルド)
2047年のインドを舞台にしたSF短編の連作は、旧制度や宗教の影響を色濃く残しながらハイテク技術が繚乱する不思議な世界観に満ちています。AIと遺伝子操作が新しいカーストを生み出し、分裂国家となってロボット戦争を起こしたインド亜大陸はどこに向かうのでしょうか。ラストがキブスンの『モナリザ・オーバードライブ』と似すぎているのが、ちょっと残念。

3.ロサリオの鋏(ホルヘ・フランコ)
パライソ・トラベル』の前段的な作品といえるでしょう。著者が扱うテーマとしても、コロンビアの若者たちがアメリカに恋焦れる背景としても・・。スラムに生まれて殺人者かつマフィアの情婦となったロサリオは「強い女」でありながら「深い傷を負った女」です。彼女に「運命的な純愛」を捧げる語り手の物語はいかにも南米的なドラマなのでしょう。



2012/11/24