りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

身をつくし(田牧大和)

イメージ 1

新感覚の時代小説を次々に著している著者の、文壇デビュー直後の作品です。主人公は、かつて南町奉行所内の筆頭与力であったものの訳あって失職し、今は根津権現近くで「よろず相談所」を開いている美男の清四郎。

腕利きで面倒見の良い清四郎のもとには、市井の事件が次々と舞い込んできます。彼を頼りにしている北町奉行所の松田や、彼の状況を見守っている南町奉行所の小暮らに協力もするのですが、公職を去っている清四郎には、人情に沿った決着が可能なのですね。ただしそのためには、人一倍苦悩を背負い込まなくてはなりません。

飾り職人が相模屋に依頼されて丹精込めて作った簪がことごとく返され、あげくの果ては相模屋の女中に無理やり言い寄ったとされて訴えられた事件の裏には、叶わなかった悲恋がありました。振り売り屋が茶店で間違えて持ってきてしまった箱に入っていた大金は、武士の体面を守ろうとする秘密があったのです。

そして馴染みの煮売り家のお染が、以前恩義を受けた破天荒な女の身代わりになろうとする事件には、清四郎の過去が二重写しになってくるのです。彼は、恩義ある上司の奉行の内意を受けて、内部告発者となったがために武士であることを辞めていたのでした。

まだ粗削りな点も目立つ作品ですが、意表を突く発想やテンポ良い展開に、その後の大活躍を予感させる作品でした。

2018/12