りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

残念な日々(ディミトリ・フェルフルスト)

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ベルギーのフランダース地方の貧しい村で生まれた著者による自伝的連作短編には、残念な男たちが溢れています。祖母の家に身を寄せている離婚した父親と独身の叔父たちは、ビールと生のミンチ肉を主食とし、猥歌を大声で歌い、女性にはすぐに手を出し、もちろん仕事などしようとはしないのです。

しかし彼らは皆、貧乏であることに一種の矜持を持っており、彼らの貧しさも下品さも愛情を伴っていたことは、成人して都会に暮らす著者自身がよくわかっているのです。とんでもないエピソードを、シニカルにもコミカルにも描かない本書のスタイルからも、それは伝わってきます。

「美しい子ども」都会に嫁いだ叔母の娘に酒場で話しかけてきた男は、娘の父親でした。
「赤ん坊の沈む池」孤独な老婆に頼まれたのは、飼い犬の産んだ子犬を池に沈めること。
ツール・ド・フランスレースになぞらえて酒を飲むイベントを「発明」した叔父が飲みすぎて倒れても、祖母は全然気にしません。平地コースで飲むのはビールですが、マウンテン・コースで飲むのはブランディなんですね。^^;

オンリー・ザ・ロンリーTVが差し押さえられてしまい、ショー番組を見るために訪れたイラン人の家では、地元の人が初めて訪問してくれたと歓迎するのですが・・。

「父の新しい恋人」父を訪ねてきた女性は、少年裁判所から調査に来たスタッフでした。
「母について」僕を産んで失禁庄になった母が手にした小便許可証!。海で小便する母を置いて逃げ出してきたのが、母に関する最後の思い出になりました。

「巡礼者」断酒クリニックに入院を決意した父の前で、施設からの跳び下り自殺が・・。
「収集家」久しぶりに会って友人ぶりを押し付けてきた旧友は不幸な結婚をしていました。
「回復者」クリニックから戻ってきた父でしたが、すぐにまた酒場に行ってしまいます。
「後継者の誕生」成人した主人公に息子が生まれますが、祝う気持ちになれません。彼の嫌いな女性は母と妻なのですから・・。

民俗学者の研究対象」認知症の祖母が突然歌いだしたのは、若い日の猥歌でした。
「あの子の叔父」妻と別れた主人公は、息子との面会日に叔父たちと会わせるのですが、すぐに後悔してしまいます。

本書は、ベルギーとオランダで「フランダースの刑務所で聖書の次に読まれる」ほどのベストセラーとなったとのことです。

2012/6