何度も自殺をはかる詩人の姉サヴァナを救うために、精神科医スーザンに家族の歴史を語り始めた双子の弟トムは、癒やしを求めているのは自分自身であると気づいていきます。姉の心の闇には何が潜んでいるのか。トムが心の奥に押し込めたものは何だったのか。
サウス・キャロライナの大自然の中で、粗暴で無計画な父親ヘンリーと美しく歪んだ母親ライラのもとで、3人の子供たちは両親の諍いに巻き込まれながら、それぞれ自衛手段を講じながら育っていきました。
素朴な故郷愛と家族愛を抱く長兄のロイは愚鈍を装いながら育って優秀な海兵隊員となり、詩の天分に恵まれたサヴァナはニューヨ-クへと逃げ出し、平凡な暮らしを望んだトムは妥協と回避とで生き延びてきたのですが、やがて破綻が訪れます。
それは、母親ライラの裏切りと家族の所有地であったメルローズ島を持参しての再婚であり、子どもたちがキャランウォルドと呼んだ粗暴な男たちの暴行であり、核兵器工場を誘致するために町を放棄する計画だったのですが・・。
「潮流の王者に酒を・・キャランウォルド・・虎男・・アグネス・ディはどこにいるの」というサヴァナが病床で叫んだ意味不明のフレーズが、トムの語りによって家族の歴史として肉付けされていく過程が物語性に富んでいて素晴らしい作品です。
信仰に篤い祖父エイモスと奔放な祖母トリサのエピソードもいいですし、小説内で2回登場する「湿原に沈む夕日と昇る月」の場面も効いていますね。
2012/6再読