りぼんの読書ノート

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ルーズヴェルト・ゲーム(池井戸潤)

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野球を愛したルーズヴェルト大統領は「一番おもしろい試合は8対7だ」と語ったそうです。とはいえ同じ得点にもさまざまなパターンがあり、逆転また逆転のシーソーゲームもあれば、「0対7」からの大逆転劇もあるのです。

本書は、リーマンショック後の業績不振に追い討ちをかけるように、大口取引先から値下げと発注削減の通告を受け、銀行からはドライなリストラ策の実行を迫られ、ライバル企業からは買収工作をかけられた中小企業メーカーの物語ですが、2つのストーリーが絡み合いながら同時進行で進みます。

ひとつは抜擢されて間もない細川社長らが挑む経営再建の物語ですが、もうひとつは同社が保有している社会人野球チームの物語。プロほどの技量もなく、高校野球のように郷土愛に支えられてもいない社会人野球チームは、広告塔としての役割も低下するなかで、会社のお荷物となっているケースも多いのでしょう。このチームの場合は、近年の成績低迷に加えてライバル企業から監督と看板選手を引き抜かれ、完全にノックアウト寸前。リストラ策の一環として解散すべきとの声も日に日に増すばかり。大半の野球部メンバーは契約社員であり、解散=退職となってしまうのです。

細川社長は、優れた開発部門以外は全てを切り捨てようとするライバル企業の本音を見抜いて新技術開発に社運を賭け、野球部は挫折を経験した新監督を招聘して刷新を図るのですが・・。「日本版マネーボール」のような新監督の采配も読ませ所ですが、スポーツ・アニメのように「優勝=存続」となるものでもありません。それでもラストチャンスにしがみついて、全力を尽くさなければ、単なる負け犬になってしまうだけ。

近年、野球に限らず社会人スポーツチームの解散ニュースをよく聞きますし、プロチームでも人気が低迷する競技ではスポンサー探しに四苦八苦の状況ですが、あえて社会人野球という地味なテーマを選んで、あえて二兎を追った作者の思いが伝わってきます。本書は「希望の持てない社会」に対するひとつの処方箋でもあるのでしょう。

2012/6