りぼんの読書ノート

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ジョゼフ・フーシェ(シュテファン・ツヴァイク)

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伝記・歴史小説の大家による、『マリー・アントワネット』と並ぶ「フランス革命もの」の傑作です。

このフーシェという人物、国民公会議員に当選した当初はジロンド派に属していたものの、ルイ16世裁判において処刑票を投じたことを契機として一時はロベスピエールに接近。リヨンの「反革命派」大虐殺などに辣腕を振るうものの、ジャコバン派の勢いに陰りを感じて袂を分かち、テルミドールのクーデタを生き延びてバラスらの総裁政府では警視総監に就任。秘密警察と密偵を使って国家のあらゆるものを監視するシステムの統括者となるに到ります。

フーシェの変節と生命力の強さはそれだけでは終わりません。ナポレオンの政権奪取にも貢献して警察大臣となったと思ったら、後にナポレオンとも対立し、王政復古にも協力するのですから。彼が唯一読みきれなかったのは、彼も擁立に一役買ったルイ18世から最晩年になって放逐されたことだけ。

本書は「サン=クルーの風見鳥」とまで呼ばれたフーシェを、「無定見で無原則の人物」とするのではなく、あくまでも「自分の原則に忠実に生きた人物」として描き出します。それは、保身と蓄財と権力行使という、形而下的な原則にすぎないのですが・・。

しかしフーシェは、天才的に「時勢の変わり目」を読みきってきた人物とも言えるでしょう。タレーランとともに「革命を最初から最後まで生き抜いた」稀有な人物であり、彼の人生がそのまま「革命の歴史」となっているのですから。

辻邦生さんの『フーシェ革命暦』は、ツヴァイクに「冷血動物」とまで言われたフーシェに新しい人物像をまとわせようとする試みでしたが、未完のまま終わったことが惜しまれます。

2011/6