りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

イル・ポスティーノ(アントニオ・スカルメタ)

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1960年代のチリ。岬の一軒家に隠棲しているのは世界的詩人のパブロ・ネルーダネルーダ専門の郵便配達人となった漁師の息子マリオは、酒場で一目惚れしたベアトリスに捧げる詩を書いて欲しいと、詩人に頼みこみます。

本書は、素朴な青年が詩人と交流していく中で詩の世界に触れ、恋を知り、恋人や故郷の美しさにあらためて気づき、人間として目覚めていく物語。「詩は作者のものではない。それを必要としている人のものなんだ」という名言まで吐いてしまうのだから、詩人の影響と恋の力は大きい!

しかし、マリオの恋の成就と息子の誕生、アジェンデ左翼政権の勝利、ネルーダのフランス大使への任命とノーベル文学賞受賞と続いた喜びの日々は、後半になって暗転していきます。クーデタによるアジェンデ政権の崩壊、クーデタの最中のネルーダの病死、ネルーダを礼賛したばかりに社会主義者とみなされたマリオの拉致・・。

本書は単なる「友情と恋愛の物語」を超えて、「祖国愛と人間愛」の高みに上っていくんですね。イタリアを舞台とした美しい映画よりも、原作のほうに深みを感じます。

2011/6