りぼんの読書ノート

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エルドラードの孤児(ミウトン・ハトゥン)

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南米文学というとまず、ノーベル賞作家であるマルケスリョサ、ガルーダなどが思い浮かびますし、近年ではアジェンデ、ボラーニョ、モヤ、アラルコンなども多く紹介されていますが、南米最大の国であるブラジルの作家のことは、今までほとんど知りませんでした。今般、水声社が刊行開始した「ブラジル現代文学コレクション」の第1作が本書です。

舞台は20世紀前半のアマゾン中流地域「エルドラード」。すでにマナウスは都市化しつつあるものの、周辺地域では、まだ神話が色濃く残っているようです。本書の主人公は、ゴムブームで財を築いた父親が急死した後、夢幻的世界に生きて人生を浪費してしまったアルミント。すでに時の感覚も失い、自分が何者であったのかもわからなくなってしまった隠居老人が、過去の記憶を語り出します。

父親の財産や事業はもちろん、母親代わりに彼を育ててくれた女性フロリッタのことも顧みずに、彼が唯一執着したのは、かつて一夜をともにしたきり姿を消したインディオの娘・ジナウラを捜し出すことでした。彼とは異母妹であるとか、ハンセン病に罹ってアマゾン川中の島に隔離されているとか、船の事故に遭ったなどの噂もあったものの、彼女の消息は途絶えたまま。そして、彼の思いが純愛なのか錯乱なのかも不明なまま、物語は終わります。

結局のところ、本書のテーマを表わしているものは、冒頭に記された「町」という詩なのでしょう。あてどなく世界を歩き回ったものの、常に廃墟となった同じ町にたどり着き、人生を蕩尽した男に捧げられた挽歌です。

2018/5