りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018/8 火星の人(アンディ・ウィアー)

8月にはSF作品をたくさんアップしました。暑い夏を乗り切るには、SFに限りますね。スピルバーグが監督した映画「Ready Player One」の原作者であるアーネスト・クラインさんのオタクぶりも、リドリー・コットが監督した「オデッセイ」の原作者であるアンディ・ウィアーさんのハードぶりも、半端なく楽しめました。ただし上位には、ちょっと重めの海外文学作品を並べています。


1.火星の人(アンディ・ウィアー)
火星にひとり取り残された宇宙飛行士は、救出隊が来るまでの2年間を生き延びることができるのでしょうか。酸素、水、食料、エネルギー、通信、移動などの問題を解決していく過程には、超科学的な技術や超人的なアクションなどいっさい登場しません。本書は、最初から最後まで物理化学法則に基づいた超ハードSFなのです。終始ユーモア精神を忘れない主人公の明るいキャラが、固い内容と上手にバランスをとってくれています。

 

2.ゲームウォーズ(アーネスト・クライン)
1980年代に少年期を過ごした著者が没入した、ゲーム、映画、アニメの世界がふんだんに盛り込まれたクロスオーバー作品です。革新的な仮想現実ネットワーク「オアシス」の開発者の莫大な遺産を巡って、「オアシス」内に隠されたイースターエッグの争奪戦が始まります。オタク少年と仲間たちが、悪の巨大組織と最後に対決する場面はなんと、「ウルトラマンvsメカゴジラ!」。とにかく楽しい作品なのです。

 

3.はるかな星(ロベルト・ボラーニョ)
チリのクーデタによってスペインに亡命した作家にとって、故郷は「はるかな星」なのでしょう。彼にとって、決着を付けなくてはならない「根源悪」とは何だったのか。著者が繰り返して綴っている「詩人」、「失踪」、「亡命」、「根源悪」などのテーマが全て含まれている作品です。

 

4.エトワール広場/夜のロンド(パトリック・モディアノ)
フランスのノーベル文学賞受賞作家が1968年に22歳で発表した、デビュー作と第2作が収録されています。両作品に深く刻み込まれているアイデンティティへの疑念は、「ナチス占領下のパリで闇のブローカーとして生き残ったユダヤ人」である父親を持ったことに由来しているのでしょう。自分自身と父親の2つの人格が、作品の中でせめぎ合っているようです。

 

5.昏い水(マーガレット・ドラブル)
「老い」とは、ロレンスの詩のフレーズにある「昏い水が押し寄せてくる」ようなもの。誰にとっても必然的な帰結である「老いと死」をテーマとする群像小説ですが、決して暗くはありません。老いと死を意識しながらも、最後までユーモア精神を失わずに生命を輝かせ、、晩年を豊饒なものとしている老人たちの物語なのです。

 

 

2018/8/30