りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

わたしを見かけませんでしたか?(コーリイ・フォード)

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近頃なぜか、階段の勾配はきつくなり、電話帳の活字は小さくなり、駅は遠くなり、スーツは胴回りだけ縮んでしまったという「あなたの年齢当てます」をはじめとして、中年男性の悲哀をユーモラスに描いた12編の「あるある」短編集です。

デバートやレストランの店員から気づいてもらえず、タクシーも停まってくれず、紹介されても誰にも覚えてもらえないのは、表題作の「わたしを見かけませんでしたか?」。話を始めると誰もが用事を思い出してしまう「話し手の言い分」。注意深く話を聞く姿勢ですら咎められる「聞き手の言い分」。「怒ったら怖い」はずなのですが、人前では無理というもの。もちろん「いますぐに思いだすから」のように物忘れだってひどくなる。生きていくのは大変なのです。

休暇だって気を抜けません。知人の家に呼ばれる苦労を描いた「週末は大きらい」に、要求されるのに決して報われない「日曜大工の哀しみ」。庭でバーベキューパーティなんか開いたら混乱の極致となる「バーベキュー天国」。古い田舎の別荘など買うなんて自殺行為のようだという「ドアの鍵をまわすだけ」。いっそ「冬の華」の室内想像スキーヤーであるほうがすっとマシ。

女性に対する視線も辛らつです。ありとあらゆるダイエットを試したのに体重が増える「死んでもダイエット」。女性が集めるものは全く理解できないと嘆く「右も左もコレクター」と「ヒモをためてますか?」でも結局は「女の言い分」で検証されるようにどっちもどっちなのでしょう。犬の目線で人間の飼い方を綴った「愛人マニュアル」のように、上手に男を使いこなしてさえくれれば、まだ救われるのですが。

でも「わたしを見つけてもらう」必殺技もあるのです。それはレストランで料金を払わずに出て行こうとすること。普通に呼んでは決して来ない店員だって、たちどころに飛んで来るそうですから。

2018/8