1973年に暗殺されたチリのアジェンデ大統領の姪で、1982年に『精霊たちの家』でデビューした著者が、亡命先のベネズエラを舞台にして著した作品です。
密林に捨てられていた少女と、毒蛇に噛まれて死にかけていたインディオの間に生まれた娘エバが、さまざまな人々のもとを転々としながら、自らの人生に目覚めていく物語。母親が急死して、学問も職能も持たずに世間に出ることになった混血の少女は、女中として生きていくしかありません。しかしその境遇こそが、多くの人と制約なく出会うことを可能にしたようです。
人間を剥製にする秘法を発見した老博士。悪癖を持つ政府の高官。妻に裏切られるアラブ人の商人。東欧から亡命してきた老女。たくましい娼館の女将と、一見すると絶世の美女にしか見えないオカマ女優。そして彼女に恋したストリートボーイのナランホが身を投じた革命に、エバも関わって行くことになるのです。彼女は天性の逞しさと、シェヘラザードのように物語を紡ぎ出していく「ストーリー・テラー」としての才能によって、厳しい時代を生き延びていきます。
エバの物語と並行して語られるのは、暴力的な父親が殺害されて精神の均衡を欠いたため、欧州から南米の叔父の下に送られた青年ロルフの物語。牧歌的な山奥の村で快適に暮らしたロルフは、やがて村を出て、ジャーナリストとして成功してゆきます。そして投獄された革命家たちを脱獄させる計画の中で、エバとロルフは運命的な出会いを果たすのです。
著者は、小説家としてデビューする前はジャーナリストとして活躍していたとのこと。エバとロルフはともに、著者の分身なのでしょう。本書を「ビカレスク文学」とか「反体制文学」とか「フェミニズム文学」に分類することもできるようですが、シンプルに物語を楽しめばよいのではないかと思います。そしていつの世にも変わらずに楽しい物語は、ラブロマンスなのです。
2018/8