りぼんの読書ノート

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タスマニア最後の「女王」トルカニニ(松島駿二郎)

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世界で一番空気と水のきれいな島タスマニアの歴史の陰部を描いたノンフィクション。大英帝国植民地下でタスマニアン・アボリジニが絶滅に到った過程を「読み物」とした作品です。

オーストラリア本土と同様にタスマニアも、犯罪者の流刑地として扱われていましたが、同じ時期に本格的な入植も始まっています。入植者が開いた農場や牧場がアボリジニの生活の場を侵食したために小競り合いが起き、1828年には当時のアーサー総裁によって、開拓地に入り込むアボリジニを逮捕する法律が施行されるに至るのですが、実際に大きなダメージを与えたのは、皮肉なことに「友好政策」のほうだったようです。

もちろんその目的は真の友好ではなく、「融和」の名のもとにアボリジニを囲い込み、白人から隔離して孤島に居留地を与えるものにすぎなかったのですが、そこで活躍したのが、本書で主役的役割を果たすロビンソン。アボリジニと結んだ友好関係を活用し、自ら進んで島に渡るよう説得してまわったのです。

旺盛な好奇心からロビンソンに近づき、男女の関係となっていた無垢な少女トルカニニは、彼の水先案内を果たすことになってしまいます。タスマニアン・アボリジニが、強制移住させられたフリンダース島で劣悪な食糧事情とイギリス人が持ち込んだ伝染病によって絶滅への道を歩むことになるとも知らずに・・。

やがて、最後の純潔タスマニア人となったトルカニニが1876年に死亡して民族は滅亡。少女が成長し年老いるまでの半世紀で一民族が絶滅してしまうのですから、史上稀に見る残酷な出来事といってもいいほど。晩年、最後の一人となったトルカニニが「女王」と呼ばれたというのも悲しいですね。ポカホンテスのような運命。

タスマニア旅行の直前にこの本を読んだのですが、ホテルに置いてあった現地の雑誌にもトルカニニとロビンソンの物語が紹介されていました。同じ写真を使って同じ論旨で・・。なお「混血」のタスマニアン・アボリジニは、現在6000人ほど残っているそうです。

2011/6