りぼんの読書ノート

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ブッチャーズ・クロッシング(ジョン・ウィリアムズ)

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「ひとりの男が教師になるだけの物語なのに魅力にあふれた作品」である『ストーナー』と同じ著者の作品とは思えないほど、荒々しい小説です。

 

舞台は19世紀末のアメリカ西部。まだフロンティアは消滅しておらず、バッファローが群れをなす未開の荒野も存在している時代。ハーバードで学んだ自然派の詩人エマソンに憧れて大学を中退した東部の青年アンドリュースが、 ブッチャーズ・クロッシングというカンザス州の小さな入植地を訪れたところから物語は始まります。父の知人である皮革商人に紹介された猟師のミラーが組織した4人の狩猟隊の一員として、バッファロー狩に向かうのですが、それは常軌を逸した旅となってしまうのです。

 

そもそもエマソンが詩に読んだのは、人里に隣接した「フロントカントリー」にすぎません。厳しい原生自然である「バックカントリー」は、人間の生存そのものを脅かす地域なのです。ミラーの案内で入り込んだコロラド州南部の谷は、たどり着くまでにも渇きに苦しめられ、冬になると雪に閉じ込められてしまうような場所だったのです。

 

幸運にもバッファローの大群と遭遇した一行でしたが、全てのバッファローを殺害するまで帰還しないというミラーの狂気を抑えることができません。はじめは2週間の予定だった狩猟は1月を超え、やがてひとひらの雪が谷に舞い降りてくるのです。果たして一行は、大量のバッファローの皮をブッチャーズ・クロッシングまで持ち帰れるのか・・という物語なのですが、西部のテキサスに生まれ育った著者が伝えたかったものは単なる冒険譚ではないようです。

 

それは西部の自然の厳しさであると同時に、無意味な虐殺への反対であり、ひいては西部開拓史を貫くアメリカの勝利主義への批判であるようです。それらを体験してしまったアンドリュースは、町に戻った瞬間に「カントリーへの憧れ」を失ってしまうのです。入植地で一番美しく、彼に好意を抱いた女性の寝顔に、むきだしの絶望を見出してしまうほどに・・。『ストーナー』とはあまりにも異なる物語ですが、両書のテーマは同じものなのかもしれません。

 

2021/1