りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サブリナとコリーナ(カリ・ファハルド=アンスタイン)

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コロラド出身の若い著者による短編集ですが、彼女の出自を一言で表すのは難しいのです。チカーノと呼ばれるラテンアメリカ系でありながら、ユダヤ、アングロ、フィリピンの血も交じっているという一族の出身。そもそも彼女たちは移民ではなく、アメリカとの戦争に敗れたメキシコから割譲された地域に住んでいただけなのです。

 

それぞれの物語の時代背景も、すべて女性である視点人物の年齢も異なっているのですが、彼女たちは皆に通っていて、酒、ドラッグ、暴力、病気、貧困、望まれない妊娠などの問題を抱え込んでいます。一族の要ともいうべき「おばあちゃんたち」の存在感は際立っているのですが、現代世界に生きる彼女たちがそのような成熟を迎えることは可能なのでしょうか。

 

「シュガー・ベイビーズ」

子供と見立てた砂糖袋を男女ペアで育てるという中学校の授業は、育児責任は父母で分かち合うことを教える目的なのでしょう。しかしシエラの家庭では育児放棄して3年前に失踪した母が、シレッと戻ってきたところだったのです。父娘の家庭をひっかきまわした母は、再び都会へと出て行ってしまいます。

 

「サブリナとコリーナ

モデルを目指していた美しい従姉のサブリナは、結局のところ身を持ち崩して自殺してしまいました。Syっピングモールの美容部員として働いている、いつも彼女と比べられていたコリーナは、従姉に死化粧を施すように依頼されてしまいます。

 

「姉妹」

美人で社交的なティナは、少女時代のサブリナのような存在なのかもしれません。内気な姉ドティは男性と付き合うことなど望んでいなかったのに、妹から紹介されたボーイフレンドから暴力をふるわれて重傷を負ってしまいます。物語の冒頭では、行方不明になったフィリピン系女性の捜索に冷淡な社会の雰囲気も描かれています。

 

「治療法」

同じ男に捨てられた女の息子のことを気にかけて、娘のクラリサに異母弟として紹介してくれた母は、もちろん優しい女性です。彼が持ち込んだシラミには閉口させられましたが、そのことが祖母に伝統的な民間療法を教えてもらうきっかけになったのです。

 

「ジュリアン・プラザ」

ジュリアンプラザ老人ホームの用務員をしている父は、亡くなった人の持ち物を無断で手に入れることもあったけれど、一家はまずまず幸福だったのです。母が死病に侵されるまでは・・。

 

「ガラパゴ」

祖母が一人で暮らしていた街中のガラパゴ通りの家を出ることにしたのは、少年の強盗に襲われてしまったから。恐れた祖母は銃の引き金を引いて、少年を殺害してしまったのです。デンバーでは、貧困層が残されていた都市中心部に富裕層が回帰した結果、ヒスパニック系の人々は郊外へ追いやられているそうです。

 

「チーズマン・パーク」

この物語の主人公リズも、サブリナと同類ですね。モデルになるためにロスに向かい、結局は男に暴力を振るわれて逃げ戻ってきたのです。しかし賢明な未亡人モニカと出会ったことが、彼女を変えていくのかもしれません。

 

「トミ」

兄を捨てて出ていった女が残していった息子がトミ。叔母にあたる若いコールは、アル中で泥棒で刑務所にも入っていたことがあるのですが、勉強が苦手なトミのことが気にかかります。珍しく明るい余韻を残してくれた作品です。

 

「西へなどとても」

何度も男に騙された母は、まだ目が覚めていないようです。今度の男は母娘をサンディエゴに住まわせるのですが、娘のデジリーは堅実な祖母の家を離れたくありません。デジリーには母の末路が見えているかのようです。

 

「彼女の名前を全部」

珍しく三人称の小説です。もう30歳になったアリシアは二度目の妊娠をして、民間療法を行う祖母に堕胎を依頼に行くのです。お腹の子の父親は夫ではないのですから。もちろん恋人は軽薄で無責任な男に決まってます。

 

「幽霊病」

ナバホ族に伝わる幽霊病の存在を否定するような白人視点の歴史が苦手なアナですが、同棲相手の男が語る、ネイティブ・アメリカン神話には一心に聞き入るのでした。真実とは何なのかを考えさせられます。

 

2021/1