りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011/6 ムーア人の最後のため息(サルマン・ラシュディ)

どうも震災後、じっくりと読書に取り組む時間が減ってしまったように思えます。こんな時には「軽い小説」が多くなるのですが、『ムーア人の最後のため息』は、今月は数少なかった、というより唯一の本格的な文学作品。

ボスニア内戦を背景とした『カーラのゲーム』は、アクション小説の範囲を超えた深みを持った小説でした。思いがけない拾い物。^^
1.ムーア人の最後のため息(サルマン・ラシュディ)
高貴な血族の末裔でありながら、通常人の倍の速さで年老いる宿命のムーアが語る、魔術的な魅力に満ちたインドの一族の物語。独立運動の時代から、分離独立を経て、民族対立が激化するテロの時代を背景に、実在・架空の人物の物語がインドの神話・伝説とともに綴られるのですから破壊力抜群。混沌から生み落とされたものは、意外にも普遍的な悲しみだったように思われます。

2.カーラのゲーム(ゴードン・スティーヴンズ)
1994年のボスニアセルビア人勢力範囲に包囲されて孤立し、国連もNATOからも見放された町で夫と息子を失ったカーラが選んだのは、イスラム原理主義のテロリストとなることだったのでしょうか。でもそれは世界にボスニアを見放す口実を与えかねません。世界を相手にして自分のルールで闘いを挑む「カーラのゲーム」が行き着く先は・・。ネタバレを書きたくなってしまうほど、楽しめた作品でした。

3.花神(司馬遼太郎)
幕末の最後に突然登場して戊辰戦争を官軍の勝利に導き、日本近代兵制の創始者となった大村益次郎の生涯を描く大河小説。「花咲爺さん」である「花神」は、花を咲かせられない木を見分けられるといいますが近代合理主義の祖ともいえる大村は、西郷隆盛のことを最後まで合理主義と対立する人物と見切ったとのこと。シーボルトの娘・イネとのストイックな恋愛が、大村の地味な生涯に花を添えています。

4.柳生武芸帳(五味康祐)
徳川三代将軍家光の時代。大目付柳生但馬守が葬り去ろうとしていた「柳生武芸帳」の行方と秘密を追って、超絶の陰流の剣士たちが柳生一門と壮絶な闘いを繰り広げます。そこに絡むのは、竜造寺家の再興を企てる夕姫や、大久保彦左衛門や、宮本武蔵!「未完」でありながら、多くの人を惹きつけて何度も映画化された傑作時代劇です。



2011/6/30記