りぼんの読書ノート

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修道士カドフェル10 憎しみの巡礼(エリス・ピーターズ)

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リンカーンの戦いでスティーブン王を破って幽閉した女帝モードの戴冠が迫る情勢で、スティーブン王に忠誠を誓ったシュルーズベリの町は浮き足立っているようです。

そんな中、修道院では「聖ウィニフレッド」の祭りが行なわれようとしています。シリーズ第1巻『聖女の遺骨求む』でカドフェルウェールズから持ち帰った偽遺骨は今まで何の奇蹟ももたらしておらず、カドフェルも責任を感じている模様なのですが、今年も各地から多くの巡礼者が集まってきました。

中でも目をひいたのは、改悛の苦行を行なう青年と、彼に付き添うもうひとりの青年。折りしも、遠いウインチェスターの町で女帝の批判者が殺害された事件の犯人を追って、第6巻『氷のなかの処女』に登場した青年オリヴィエ・ド・ブルターニュが現れます。果たして、2人組の青年は事件と関係があるのでしょうか・・。

カドフェルはオリヴィエに深い関心を持っているようで、やはり第6巻で登場した女性アーミーナと結婚したとのニュースに顔をほころばせます。ラストに強烈な種明かしがあるのですが、ここでは触れないでおきましょう。

ところで、カドフェルも従軍した十字軍以降、中世ヨーロッパでは聖遺物を尋ね回る巡礼ブームが起きていたようです。巡礼に出る者には「やみ難い敬虔の想念表現として苦難の旅を選ぶ者や、罪障消滅を願う者、病気快癒を願う者、さらには一種の虚栄心を満たそうとする者」がいたとのことですが、観光旅行的色彩もあった日本の江戸時代のお伊勢参りとは、だいぶ違っていますね。

さて、戴冠を目前としていた女帝モードは、ロンドン市民から拒否されて追い出され、玉座に就くことができなかったようです。無政府時代を長引かせることにはなりますが、12世紀の「都市の力」を垣間見せてくれるエピソードです。

2011/6