りぼんの読書ノート

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安土城の幽霊-「信長の棺」異聞録(加藤廣)

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信長の棺で颯爽とデビューした老年の新人、加藤さんによる中篇歴史小説集。「信長・秀吉3部作」の「幕間」的な関係にある、3つの掌編からなっています。

「藤吉郎放浪記」
風采も上がらず他言もできない出自を持ち、新妻にも逃げられた若き藤吉郎が、尾張に流れ着いて信長に仕えるまでのエピソード。藤吉郎は信長に対して種も仕掛けもない外術を仕掛けて召抱えられますが、それは気力の勝負でした。当時の藤吉郎を尾張に紹介してくれた松下源太左衛門の息子・松下加兵衛が後に大名として召抱えられたのは、恩返しと口封じのためだったそうです。

安土城の幽霊」
信長に長子・信康を切腹に追い込まれた家康が半蔵に頼んだささやかな復讐は、偽の幽霊騒動だったのですが、本物の幽霊を目覚めさせてしまったのでしょうか。信長の愛人の吉乃の姪で、荒木村重に嫁がせながら、村重謀反の際に殺害した多志の怨霊を鎮めたのは、阿弥陀寺の清玉上人でした。

「つくもなす物語」
足利義満が明から求めた小壺は、一旦は所有者に天下をもたらすものの、その後に手痛いしっぺ返しをくらわす悪運の「天下壺」。義満、義政、山名が滅んだ後に松永久秀から信長に贈られたた壺は、本能寺で焼けたはずだったのですが・・。明治の世に岩崎弥之助が入手した壺は、現在は静嘉堂美術館に眠っているそうです。

2011/6