りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011/5 未亡人の一年(ジョン・アーヴィング)

今月はシリーズものや再読が多かったせいで、あまり本を読んだ気がしません。新鮮味を感じられない作品ばかりが並んでしまいました。再読ですが、他との比較において『未亡人の一年』が第1位。『ガープの世界』の雰囲気を漂わせながら、最新作『また会う日まで』のテーマの萌芽を感じさせる作品ですね。

藤沢周平さんの『用心棒日月抄』シリーズはどれも秀作ですが、やはり第1巻が抜群です。はじめは背景にすぎなかった赤穂浪士の影が主人公の運命と交差していく過程は秀逸。ギリシャ神話を現代アメリカに蘇らせた「パーシー・ジャクソン」は予想外に楽しめました。^^
1.未亡人の一年(ジョン・アーヴィング)
16歳の夏、39歳のマリアンに恋したエディが生涯貫き通した彼女への想い。4歳の夏に母親マリアンの情事を目撃した上に母親に去られ、多情な父親に育てられたルースに植えつけられた男女関係への不信。37年間のマリアンの不在が、エディとルースに及ぼした影響を、さまざまなエピソードを連ねることによって書き込んでいく、いかにもアーヴィング流の小説は、さまざまな読み方ができるものなのでしょう。

2.カズオ・イシグロ(平井杏子)
全作品の解釈を通じて、グローバルな作家の全貌に迫る「カズオ・イシグロ」論。「空疎な使命感」によるオノやスティーブンスの過去の記憶の歪曲は、ライダーやバンクスの「子どもの頃の記憶の曖昧さ」に繋がり、さらには過去を辿るキャシーの運命の痛ましさに続くんですね。そして「世界への悼み歌」となって昇華されていく・・。研究者の「論文」を読むことには、作品を再読する以上の価値がありそうです。

3.四畳半王国見聞録(森見登美彦)
モリミーの原点回帰作品です。あの「詭弁論部」が、「図書館警察」が、孤高の乙女が、無限の広がりを持つ「四畳半世界」を縦横無尽に闊歩しまくり、抱腹絶倒キャラが集う「大日本凡人會」の面々は、突如現われた「最強の敵」と徹頭徹尾無意味な闘いを繰り広げます。自意識過剰な学生たちが妄想するミニマリズム世界は、「可能性」のみを持って「将来への不安」と闘っていた自分自身の学生時代をも、戯画化したもののように思えてきます。



2011/5/30記