自分でいうのもなんですが、読書速度は速いほうだと思います。それと関係があるのかどうか、一語一語をじっくり味わうことが求められる「詩」は比較的苦手なのですが、現在ではカナダ文学界の巨匠となっている著者のデビュー作である本詩集は、後の作品との繋がりも感じられて楽しく読めました。とはいえ28篇すべての感想を書き記すのは無理ですので、印象に残った作品についてだけメモしておきます。
「これはわたしの写真」
冒頭の作品から既に不穏です、何の変哲もない風景写真の湖の水面下には、溺れ死んだ私が写っているというのですから。
「洪水のあと、わたしたちは」
『マッド・アダム3部作』の第2部のタイトルが「洪水の年」でした。早く第3部を翻訳出版して欲しいものです。
「食事」
自分が消費される息苦しさが『侍女の物語』のテーマを想起させるとまで言ってしまっては、「読みすぎ」でしょうか。
「サークル・ゲーム」
子供たちが手を繋いでくるくる回る無邪気な遊戯が、無意味な日々を繰り返す空虚なゲームに思えてきます。「円環が壊れてほしい」という結びの一文は、反フェミニズムへの批判であるとともに、後の著者のブレークスルーを予感させます。
「女予言者」
不死を与えられながら最後には声だけの存在になってしまった予言者シビュラは、著作に込めた著者の声なのでしょうか。荒野のイメージが強烈です。ギリシャ神話のモチーフは『ペネロピアド』に続いていきます。
「前-両生類」
水中への回帰という主題は、地球温暖化や洪水によるカタストロフィーのみならず、やはり『マッド・アダム3部作』を思い起こさせます。
「島々」
水面下では繋がっているものの独立した島であろうとする者たちの姿は、キング・クリムゾンの「アイランズ」と同じ主題ですが、目指している方向性は真逆ですね。
「探検家たち」
次の「入植者」たちとセットの作品でしょう。未見の地を発見した探検家たちは、そこに既に打ち捨てられたいたものに気づくのでしょうか。
「入植者たち」
最後に収められた作品の「今もなおこの地を支えている塩の海」というイメージは、冒頭の「これはわたしの写真」と対をなしているように思えます。
2020/10