りぼんの読書ノート

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ベルリンは晴れているか(深緑野分)

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1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れて4カ国統治下におかれたベルリンでは、英米ソの3首脳が集まって第二次世界大戦の戦後処理を決定するためのポツダム会談が開かれようとしていました。既にソ連と西側諸国の対立は鮮明であり、緊張感が高まる中で、ひとりのドイツ人男性が不審死。ソ連支配地域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒で殺害されたという事件は、何らかの不穏な動きの前兆なのでしょうか。戦時中にその男クリストフに助けられ、米国の兵員食堂からその歯磨き粉を入手しえたという少女アウグステは、疑いの目を向けられてソ連の秘密警察にあたるNKPDに召喚されてしまいます。

 

もっとも無垢で無力な少女が恩人を殺害したとは誰も思っていなかったようです。疑いはクリストフの甥のエーリヒに向けられ、アウグスタは彼を探しに行くように命じられます。はたしてNKPDの大尉が疑うように、エーリヒは混乱に乗じてナチス再建を志す「人狼」の一員なのでしょうか。なぜか道連れになった元俳優で陽気な泥棒や浮浪児たちとともに、アウグスタは荒廃した街を歩き始めるのですが・・。

 

本書はミステリです。クリストフ殺害犯は意外な人物であり、クリストフ自身が意外な過去を有していたことが後に明らかになってきます。しかし同時に本書は、敗戦直後のベルリンの雰囲気や、一般のドイツ人がユダヤ人問題にどのように向き合っていたのかを伝える歴史小説でもあるのです。それらについては既に多くの作品が扱っているので目新しさは少ないのですが、若い読者にとっては新鮮なのかもしれません。著者の取材は精緻であり、歴史に対する視点が健全であることが、本書を2019年本屋大賞の3位にさせたのでしょう。

 

2020/10