りぼんの読書ノート

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海の乙女の惜しみなさ(デニス・ジョンソン)

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白水社エクスリブリス」の創刊第1号は、著者のジーザス・サン』でした。あれから10年、2017年5月に肝臓癌で亡くなった遺作集として出版されたのが本書です。薬物常用者だった前半生を反映した短篇が2作、作家としての地歩を築いていった後半生を反映した短篇が3作収録されていますが、いずれも「死」を強く意識させる作品です。 

 

海の乙女の惜しみなさ 

広告代理店に長年勤務した初老の男が、彼の人生の断章を自虐的ユーモアを交えて語ります。死を目前にした前妻からの深夜の電話や、死刑囚が結婚した女の人生にちりばめられた数々の嘘や、破滅型画家の自殺などに立ち会った男は、激しかったニューヨークから離れて平凡な人生を歩んだようなのですが。 

 

アイダホのスターライト 

アルコール依存症治療センター「スターライト」に入所中の男が、ありとあらゆる知り合いや紙や悪魔に宛てて妄想的な手紙を書き散らします。その中で語り手のマークの家族がほとんど皆、破滅していることも明らかにされます。マークを3男とするキャサンドラ一族は、著者の戯曲にしばしば登場しているとのことです。 

 

首絞めボブ 

若い語り手が短期間入所した刑務所で出会った、最悪の者たちの物語。「この場所は魂の交差点みたいなもの」だったのでしょうか。語り手も殺人者となるという、ボブの予言は当たったのでしょうか。前作に収録されている「ダンダン」も登場します。 

 

墓に対する勝利 

テキサス大教授の語り手は、学生を連れて老作家ダーシー・ミラーの牧場を訪問。しかし再訪した時には、彼は死んだはずの兄夫婦と暮らしているとの妄想に取り憑かれていました。やがて老作家は病死するのですが、語り手が自分の死を予言するラストの文章が衝撃的です。 

 

ドッペルゲンガーポルターガイスト 

 大学教授を務める語り手のかつての教え子で天才詩人だった男は、エルヴィス・プレスリーに対する強迫観念に取り憑かれ、彼が途中で双子の兄弟と入れ替わったとの説に執着していました。しかし若い詩人と語り手とは、運命的な結びつきもあったようなのです。 

 

2019/9