りぼんの読書ノート

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運命と復讐(ローレン・グロフ)

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ギリシャ悲劇の骨格を有する、重層的な作品です。22歳で駆け落ちして結ばれた男女が、海辺で愛し合う高揚感が伝わってくる冒頭シーンで、「君は僕のものになった」と言う男に対して「誰かが誰かのものになるなんて嫌」と返答する女の言葉が持つ深い意味が、後に明らかになって来るのです。

第1部は夫のロットの視点からの結婚生活が描かれます。裕福な家庭に生まれ、父親は急死したものの母親の深い愛に包まれて育った美青年のロットは、今はまだ売れない俳優。数多くの女生と関係を持ちながらも、マチルドと運命的な出会いをしてたちまち結婚。それを許さない母親から資金を絶たれて、貧しい暮らしをしながらも、劇作家に転身して大成功を納めます。それを支え続けたマチルドの純愛を、彼は疑ったことはありません。しかし彼がマチルドの秘密を知る時が来るのです。

一転してマチルドの視点から語られる第2部は、ロットの物語をすべて覆していくのです。そもそもマチルドという名前すら本名ではなかった女性は、保護者との不純な「契約」のもとで前半生を生き抜いてきたのです。そして「プロ彼女」のようにロットに接近して結婚。ロットが母親と生涯和解できなかったことや、ロットの劇作家としての成功すら、彼女の嘘の上に成り立っていたことが語られていきます。

そしてロットを失った後に、本書の「ギリシャ悲劇性」が幕を開けるのです。彼女は何に対して罪の意識を覚え、何に対して復讐を誓うのか。彼女は自分が作り上げた人生に満足できるのか。そしてロットに対する愛情は真実だったのか。

深い古典的素養の上に紡がれたフィクションの巧みさには、酔いしれてしまいます。思えばロットが生み出した数々のヒット作のテーマすら、彼女の後半生を予言するかのような内容でした。村上春樹編の恋しくてに収録されている、著者の「L.デバードとアリエット」を再読してみたくなりました。

2018/5