りぼんの読書ノート

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藪医ふらここ堂(朝井まかて)

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神田三河町の小児科医、天野三哲のあだ名は「藪のふらここ堂」。何かにつけて「面倒くせぇ」を連発し、嫌いな患者は診察もしないということで「藪」の称号は当然ですが、庭の山桃の木に吊るした「ぶらんこ」が目印なので「ふらここ堂」。
 

 

三哲に振り回されながらも診療を手伝う娘のおゆん、押しかけ弟子の次郎助、凄腕産婆のお亀婆さん、男前の薬種商・佐吉など、周囲の面々を巻き込む事件の数々は、医療が絡む人情物語。でもこういう仕立ては、現代のTVドラマでも珍しくありませんね。人の生死がかかる医療現場は、人情がスパークする場所なのですから。 

 

三哲先生のダメぶりは、薬種商に吉原のリベートをたかるエピソードで極まりますが、彼はただの藪医者ではなさそうです。なんと江戸城御殿医に推挙されるという展開も待っているのです。奥手のおゆんの恋物語の部分は少々雑味感がありますが、三哲先生の性格よろしく一本筋の通った物語に仕上がっているのは、著者の力量ですね。 

 

「ふらここ」とは味わいのある言葉です。「人は皆、正と邪の間を、ふらここみたいに揺れながら生きている」というのです。名医と藪医者の境目もまた「ふらここ」なのでしょう。 

 

2019/9