りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

京都鷹ケ峰御薬園日録 ふたり女房(澤田瞳子)

イメージ 1

奈良・天平期を主戦場としてしっかりした歴史考証に基づく作品を著している著者ですが、若冲や本シリーズなど、江戸時代を舞台とする作品によって、幅を広げようとしているようです。

本書の主人公は、京都鷹ヶ峰にある幕府直轄の薬草園で働く21歳の元岡真葛。藤原摂家に連なる棚倉家の娘であった母親は真葛3歳時に他界、御門跡医師であった父親は長崎に旅立ったまま行方不明となり、禁裏御殿医鷹ヶ峰御薬園預を兼ねる藤林道寿の養女として育てられた女性です。道寿は既に亡くなっており、当代の義兄・匡と妻・初音との関係は良好で、薬草と医療の知識も重宝されているものの、不安定な状態にいるという設定がいいですね。

「人待ちの冬」
棚倉家の下男・平馬に頼まれて、平馬の恋人・お雪の奉公先である薬種屋を訪問した真葛は、家内のただならぬ雰囲気を感じます。最低の男を婿に迎えてしまった薬種屋の娘とお雪は、男たちに復讐を果たそうとしていたのです。

「春愁悲仏」
当代きっての本草学・小野蘭山の愛弟子・延島杳山が登場。真葛と杳山は、怪しい民間療法の真実に迫って行くのですが、医療が発達していなかった時代、神仏に頼らざるをえない庶民感情を思うと、複雑な気持ちになってしまいます。

「為朝さま御宿」
これも民間療法に関する物語。疱瘡退治に効果があるという坂田木綿の伝説が生まれた背景には、藤林家の先代主人も関わっていた意外な事実がありました。悪いのは民間療法そのものではなく、そこにつけこんで金儲けをたくらむ輩のようです。

「ふたり女房」
勝気な妻に振り回されている入り婿には、秘密がありました。彼には、目を病んで療養所暮らしをしている妻がいたのです。夫婦感情の綾は他人からはうかがい知れないものの、目の前の相手に優しくしてしまう気の弱い男は、やはりクズなのです。

「初雪の坂」
寺の床下で暮らす少年が盗み出した御薬園の生薬で死者が出たというのは、事実なのでしょうか。藤林家の名誉を傷つけかねない事件を探る真葛は、その寺の和尚の過去の犯罪を暴き出すのですが・・。

「粥杖打ち」
「粥杖打ち」とは宮廷の行事で、小正月十五日に食する小豆粥を炊いた杓子で尻を叩かれた女性が、男児を産むと言い習わされていたとのこと。しかし「粥杖打ち」によって妊娠したと言い張る下女の真意は、どこにあったのでしょう。女性がひとりで生きるにはつらい時代なのです。

小野蘭山が行う薬物採取の旅への同行を延島杳山から誘われていた真葛でしたが、義兄の匡は得られていませんでした。しかしこの事件によって、薬草と医療の知識を深めたいという真葛の意志は固くなったようです。本書を通して流れるテーマは「女性の自立」なのです。

2018/2