りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

くさまくら(篠綾子)

『からころも』と『たまもかる』に続く「万葉集歌解き譚シリーズ」の第3弾です。もっとも舞台は江戸時代であり、賀茂真淵の弟子として「万葉集」の詩歌を学んでいる薬種問屋の娘しづ子が主人公。彼女が出会う不思議な事件の謎を解く探偵役は、陰陽師の末裔という葛木多陽人。しかし彼は人情には鈍いようで、しづ子の恋心には全く気付いていない様子。

 

今回しづ子は、伊香保温泉へと旅に出ることになりました。旅情と温泉を楽しむことが目的なので、まったく優雅なもの。同行するのは母親の八重と、手代の庄助と、小僧の助松と、女中のおせい。さらに護衛役として多陽人も同行。武蔵野や上州の旅情を詠んだ万葉集の詩歌をひもときながらの旅は順調で、伊香保にも無事到着。しかし道中渡った烏川上流から流れて来た人形祓いを目にした多陽人は、何か気になることがあるようで別行動を願い出ます。そして約束の5日が経っても、彼は戻ってこなかったのです。八重の命で烏川の上流まで捜索に向かった庄助と助松は、そこで何を見たのでしょう。

 

今回のテーマは「隠れ里」です。現代の長野・群馬県境に発する烏川の上流地域にある隠里は、平家の落人伝説はもちろんのこと、万葉集にも登場する「浦島子」の物語と、どのように関係しているのでしょう。もっともこのシリーズの魅力は、謎解きでななく歌解きであり、千年を超えて連綿とつづく和歌の魅力をわかりやすく伝えてくれるところにあります。今回印象に残った句は「ゆうだたみ てにとりもちて かくだにも われはこいなむ きみにあわぬかも」と「とこよべに すむべきものを つるぎだち ながこころから おそやこの君」でした。それと伊香保旅行の前に行った市川真間で手児奈伝説を詠んだ「われもみつ ひとにもつげむ かつしかの ままのてこなが おくつきどころ」の物語。

 

2023/3