りぼんの読書ノート

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小説フランス革命11 徳の政治(佐藤賢一)

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ロベスピエールと組んだダントンとデムーランに追い詰められたエベールは、みたびサン・キュロットに蜂起を呼びかけますが、戦局の好転と生活の安定が見えてきた折、政治的な理由ではパリは燃え上がりません。エベール派は捕えられて断頭台の露と消えることになります。

しかしデムーランは耳を疑います。「徳と恐怖の政治」を高らかに謳い上げたロベスピエールの矛先が、長年行動をともにしてきた彼とダントンに向かってきたのですから。これまでずっと革命の中心にいて「中間派」として左右を排除してきたロベスピエールは、左派のエベールを斬ったバランスを右派のダントンらに求めるのでしょうか。それともロベスピエールサン・ジュストらに操られているだけなのでしょうか。

ミラボー同様に個人の力で革命を進めようとするダントンと、革命的理性の申し子であったデムーランの処刑こそが、フランス革命の最後の転換点だったようです。死に臨んでロベスピエールの行く末を心配するダントン。夫デムーランを救おうとロベスピエールに懇願する妻リュシル。しかし最後に拒絶されたのはリシュルではなく、ロベスピエールのほうでした。シリーズ全体を通じての白眉となる場面でしょう。

愛する人を殺さなければならない革命に意味はあるのか。もはや走り続けて砕けてしまうしかないのか。本書の冒頭に登場する、トゥーロン軍港をイギリスから奪還した若い砲兵隊長の名はナポレオン。次巻が最終巻ですね。

2013/10