りぼんの読書ノート

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小説フランス革命12 革命の終焉(佐藤賢一)

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構想を抱いてから10年。『第1巻』刊行からも6年。全12巻の壮大なシリーズがついに完結しました。左派のエベールも、右派のダントンやデムーランも排除した、1793年春の大粛清によって開始されたジャコバン派の独裁政治が、1794年7月の「テルミドールのクーデター」で終焉を迎えるまでが描かれます。

フランス内外の戦乱を収束させ、『徳の政治』の理念を歌い上げたジャコバン派の独裁は、なぜ打倒されなくてはならなかったのでしょう。一般的には、「農民や市民の保守化を背景として恐怖政治に対する反感が広がったため」と説明されますが、この間のロベスピエールの動きも不可解なのです。支持を失いつつも自ら事態の収拾に動くことなく、議会にも姿を見せずに、反対派の陰謀の進展を放置していたのですから。

ロベスピエールは、ダントンやデムーランを処刑した時点で壊れてしまったのではないか」と、著者は大胆に推理します。とりわけ、夫の助命を嘆願に来たデムーランの妻リシュルを見殺しにしたことが決定的だったのではないかというのです。そうか、リシュルに惚れていたのか・・。サン・ジュストから寄せられた熱い思いにも空虚は埋められず、空理空論でしかない革命精神論に逃避したというのですね。

著者は、当初は爽快であったロベスピエールの演説が、ある時点から不快に感じられるように変質してきたと述べています。ロベスピエールの格調高い理想論も、現実と乖離してしまって「押し付け」としか受け取れなくなるのです。このシリーズでは、その過程が丹念に書き込まれていました。

クーデターによって生まれた総裁政府のもとでブルジョワジー復権を果たし、やがてナポレオンが登場することになります。人類最初の壮大な実権はそうして終了に至るのですが、フランス革命の意味は、今なお理想とされる「理念の提起」にあったように思えます。

2014/4