りぼんの読書ノート

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小説フランス革命8 共和政の樹立(佐藤賢一)

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パリに「正義」の名を借りた「狂気」の嵐が吹き荒れます。1792年8月10日のテュイルリー宮殿襲撃によるルイ16世一家の幽閉と王権停止、新たに召集された国民公会によるブルボン朝の廃止と共和政樹立の宣言まではまだ治安も保たれていたのですが、パリ・コミューンによる反革命派狩りに端を発する「九月虐殺」はもはや殺戮への暴走です。

その主役はもはや公安当局でも、特別重罪裁判所でもありません。パリに迫り来るプロイセン軍に恐慌をきたしたサン・キュロットたち、すなわち一般大衆が起こしたテロリズムなのです。大衆を扇動したダントンや、国王原罪論をぶちあげたサン・ジュストや、自らの「正義」の概念に埋没していくロベスピエールらの思惑を超えて事態は進んでしまうのです。

1万4000人ともいわれる大虐殺が進む中で、穏健なはずのジロンド派も大衆に迎合する姿勢をとらざるをえなくなり、ルイ16世の処刑は当然視されていきます。8月10日には地方の義勇兵を率いて震えながら王宮に突撃したカミーユ・デムーランなどは、事態の急展開に戸惑うばかり。

ここに至って、立憲王制という穏健な形で革命の幕引きを目論んだミラボーの意図がはっきりしてくるように思えます。彼こそは、革命の初期から革命の暴走を予見して、それを食い止めようとしていた稀有な人物だったのかもしれません。革命の指導者たちの政治生命は、人民大衆とどう向き合うかにかかっていることがわかっていたのでしょう。

そして1793年1月21日の朝が開け、ルイ16世の処刑が行われます。近代史上初めての共和制は、血にまみれて生まれたということを、我々は記憶しておくべきなのでしょう。

2013/1