りぼんの読書ノート

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最後の暗殺者(ロバート・ラドラム)

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「ボーン・シリーズ」最終作の原題はボーン・アルティメイタムですが、最後まで自らのアイデンティティを追及した映画と異なり、本書は仇敵の暗殺者カルロス=ジャッカルと最後の決着をつける展開になります。

ディビッド・ウェブとしての過去を取り戻し、妻マリーと2人の子どもをもうけて学者として平穏な生活を送るボーンでしたが、彼の秘密を知る老スパイのコンクリンと精神科医のバノフがおびきだされて狙撃されるという事件が起こります。それは、ようやくボーンの所在をつきとめたジャッカルからの挑戦状だったのです。

ジャッカルとの決着をつけなければ妻子の安住もはかれないと悟ったウェブは、ボーンとしての本性を蘇らせて暗殺者を追い求めるのですが、その過程で別の敵を暴いてしまうことになります。かつてボーンらを暗殺者として養成した非合法活動機関メデューサのメンバーが生き延びて、今では世界経済を牛耳るまでになった組織が過去からの亡霊のように甦ってきます。

ボーンはメドゥーサに阻まれながらもジャッカルを追って、カリブ海へ、パリへ、そしてジャッカル誕生の地である、ソ連がスパイ訓練のために築いた機密都市ノブゴロドへと向かうのですが、因縁の2人の決着はどのようにつくのでしょうか。

本書は暗殺者から13年後という設定で、ボーンも中年となっていますし、ジャッカルに至ってはもう死を意識する老境に突入しています。互いに罠を掛け合う頭脳戦の様相が濃くなるのですが、やはり最後はアクションですね。ノブゴロドに建設された世界中の擬似都会を破壊しながらの戦いの描写は、迫力に満ちています。

そして妻マリーが真に心配したのは、愛する夫が学者ディビッドという本来の姿を失って、暗殺者ボーンへと完全に変貌してしまうことだったのですが、これが本書に深みを与えてくれていますね。映画のシリーズは、この点を強調したものだということがよく理解できます。映画が原作を超えることは稀なのですが、このシリーズに関しては映画のほうが上かもしれません。

2013/1