りぼんの読書ノート

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暗殺者(ロバート・ラドラム)

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原題は「ボーン・アイデンティティ」。マット・デイモンによるヒット映画「ボーン3部作」の原作となった作品です。かなり前に読んだのですが、映画の印象が強すぎてしまい、原作のストーリーを相当忘れていました。

作品の骨格は同じです。記憶を失って海で救助された男がなぜか命を狙われ、自分は暗殺者ではないかというという疑いを抱きながら、偶然であった女性の助けを得ながら自分の正体を求めていく物語。しかし映画が、ボーン「トレッドストーン作戦」を隠蔽しようとするCIAとの戦いであったのに対し、原作はもっと複雑です。

暗殺界の大立者カルロスをおびき出すための架空の暗殺者カインに仕立て上げられていた特殊工作員というのがボーンの正体であったため、ボーンの裏切りを懸念したCIAだけでなく、カルロスという強敵がボーンを追い回すのです。ボーンの組織への復帰を阻止して孤立させするためにしようとが新興暗殺者カイルに仕立て上げられていたとの事情がストーリーを複雑にしています。ボーンはCIAに加えて、カルロスという強敵を相手にすることになるのです。

脇役たちの扱いも異なっています。映画では第1部のラストで殺害されう「トレッドストーン」の推進者コンクリンは原作では最後にボーンの盟友となるのですから。その上司アボットは映画と逆に1部で死亡。第3部まで通して出演していたニッキは映画版オリジナルのキャラですし、ボーンを助けるマリーは放浪癖のある女性ではなく、れっきとした女性経済学者。

カルロスに追い詰められて、罠が仕掛けられたカイン誕生の地へと赴くボーンを待っているものは?
そして、デルタ=カイン=ボーンとは何者なのでしょう。

総じて映画版では、自分が暗殺者だったのではないかと恐れて過去を思い出すことに悩み苦しむボーンの心理描写が薄かったように思えます。原作の一番重要なポイントが薄められてしまったわけです。もちろん、主人公の魅力と派手なアクションや息もつかせぬ展開がそれを補って余りある作品となったため、映画は大ヒットしたんですけどね。

映画と同様に原作も3部作ですが、以前は本書しか読んでいなかったので、今回は『殺戮のオデッセイ』、『最後の暗殺者』と続くシリーズを読みきってしまおうと思います。

2012/10 再読