りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020/3 Best 3

3月は「脱出」の物語を多く読みました。1位とした『西への出口』やノンフィクションの『シリア』は現代の中東難民の物語であり、2位とした『地下鉄道』は独立戦争前の南部から北部へと脱出をはかる少女の物語。3位とした『何があってもおかしくない』や『飢餓同盟』は貧困からの脱出物語としての性格も併せ持つ作品です。「脱出」もまた、文学性が高い永遠のテーマなのでしょう。 新型コロナウィルス禍からも、早く脱出したいものです。

 

.西への出口モーシン・ハミッド 

大学の夜間授業で出会って恋に落ちた男女が暮らす街では、内戦が起ころうとしていました。市外戦、砲撃、空爆が日常化していく中で、愛し合う2人は「扉」を用いて街から脱出。しかし2人が向かったミコノスやロンドンでも排外主義者が勢力を増し、世界各国から集まった難民社会の内部でもトラブルが起きる中で、2人の関係も次第にほころんでいきます。移住とは空間的な移動を指しているのではなく、時間的な経過でもあるのでしょう。難民や移民と言う現代的な課題を描きながら、普遍的なテーマにまで踏み込んだ、完成度の高い作品でした。 

 

2.地下鉄道コルソン・ホワイトヘッド 

南北戦争以前のアメリカで、南部から北部へ向かう奴隷たちを助けた「地下鉄道」は、秘密組織のコードネームですが、本書では地下に蒸気機関車を走らせてしまいました。地下鉄道に乗って脱出した黒人少女が巡る南部諸州が、それぞれ別のパラダイムを有する異世界として描かれているのは『ガリバー旅行記』から得た着想であるとのこと。本書の中で示される支配、監視、密告、移民、難民という要素は、現代にも通じる重いテーマですが、著者の想像力を楽しむエンターテインメントとしても読める作品です。 

 

3.何があってもおかしくないエリザベス・ストラウト 

『私の名前はルーシー・バートン』の姉妹編にあたる連作短編集は、彼女の故郷である田舎町に住み続ける人々がむ人々の物語であり、本編で名前があがっていた人も多く登場します。全てのエピソードから浮かび上がってくるものは、「他者より優位を感じていようとすることが、いかにつまらないことか」という、ルーシーの文学テーマに共通する哲学です。 

 

次点 

・中央駅(キム・ヘジン)  

 

【その他今月読んだ本】  

・オリーブの海(ケヴィン・ヘンクス)  

・めぐらし屋(堀江敏幸)  

・江戸を愛して愛されて(杉浦日向子)  

・天龍院亜希子の日記(安壇美緒)  

・深読みシェイクスピア(松岡和子)  

・半分のぼった黄色い太陽(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)  

・アンジュと頭獅王(吉田修一)  

・美しき愚かものたちのタブロー (原田マハ)  

・ジョン・マン7 邂逅編(山本一力)  

・人みな眠りて(カート・ヴォネガット)  

・キャッツ(T.S.エリオット)  

古城ホテル(ジェニファー・イーガン)  

・物語イランの歴史(宮田律)  

・シリア 震える橋を渡って人々は語る(ウェンディ・パールマン)  

・トラットリア・ラファーノ(上田早夕里)  

・シンコ・エスキーナス街の罠(マリオ・バルガス=リョサ)  

・飢餓同盟(安部公房)  

 

2020/3/31