主に欧州を舞台とした『オーブランの少女』と『戦場のコックたち』に続く3冊目の単行本は、日本を無体とする青春ミステリでした。もっとも時代は1999年7月。ノストラダムスによって人類滅亡が予言された時のこと。
高校生のあさぎは、2年前に急逝した友人・基の三回忌で、彼が遺した日記を譲り受けます。心臓に持病を抱えた基が死の前日に病院に行かず、あさぎへのバースディプレゼントのケーキを買いに行っていたことを知ったことをきっかけに、彼女は彼が死なずに済んだ可能性を考え始めます。時間が分岐した平行世界など存在しないのですが、そうでもしなければ改めて襲ってきた心の痛みに耐えられなかったのです。
SFに詳しい同級生の男子・八女とともに、基の死の直前の行動を再現してみるあさぎでしたが、そんな2人を追う謎の影がありました。折しも町では、終末思想に影響された新興宗教団体の信者が立て続けに謎の死を遂げる事件が起きていたのです。やがて教団とあさぎたちの目的は、思いも寄らぬ形で交差していくのですが・・。
変えようのない過去と、これから築いていく未来の対比が強烈です。そのためには現実の問題を解決するために現時点で選択をしていかなくてはなりません。主人公たちが、1999年7月を境にして過去から未来へと視線を変えていく瞬間が鮮烈な作品でした。
桜庭一樹さんの『GOSICK』シリーズのファンだという著者は、なかなか恋愛関係に至らないヴィクトリカと久城にやきもきして、彼らがくっつく話を同人誌に描こうかと思ったそうです。本書にはそんな想いも込められているとのこと。ヴィクトリカとあさぎでは、正反対のキャラなのですが。
2019/12