りぼんの読書ノート

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歩道橋の魔術師(呉明益:ウー・ミンイー)

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1961年から1992年まで台北に、「中華商場」という巨大ショッピングモールが存在していたとのこと。本書は、8棟の建物に1000軒以上の商店があったという「中華商場」が舞台であった少年期の思い出を綴った連作短編集です。

といっても、「三丁目の夕日」的な「正統派ノスタルジー」ではありません。記憶の中に蘇る過去は、まるで異次元世界のようなのです。子供だましのインチキマジシャンが見せた本物の魔法。突然動き出した神社の獅子。エレベーターにマジックで書いた99階のボタンが連れて行ってくれた場所。意味ありげに笑う家の猫・・。

これらの異次元感覚は、懐かしい記憶と相性が良いのです。少年が成長する過程で体験した、出会い、別れ、大事な人の死、初恋、キス、裏切り、嘘、孤独、焦燥などの出来事や感情は、それ自体が異次元感覚のようなものなのでしょうから。

冒頭で、インチキマジシャンが少年に伝えた「ときに、死ぬまで覚えていることは、目でみたことじゃないからだよ」との言葉が、全編を貫いています。

2015/10