りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

生まれ変わり(ケン・リュウ)

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現代中国SFの第一人者となった著者の、日本オリジナル短編集の第3段です。前2作の『紙の動物園』や『母の記憶に』と同様に、アジア的な情感と最先端テクノロジーが共存する作品が20編収録されています。全部は無理なので、印象に残った作品だけ書き記しておきましょう。


「闇に響くこだま」
清朝末期、太平天国の乱を生き延びた盲目の指導者と出会った米国人技師は、彼が暗闇で敵の存在を知ることができた秘密を解き明かします。レーダー誕生秘話ですね。

「陰娘」
唐を舞台にした中国幻想譚です。謎めいた比丘尼に連れ去られた娘は、四次元を出入りする能力を持つ暗殺者となるべく訓練されます。しかし高潔な守護の暗殺を命じられた娘は、比丘尼の命令に背いて、姉弟子あちと死闘を繰り広げるのでした。

ビザンチン・エンバシー」
虐待されている少数民族を救うために独自の暗号通貨を創出した民間人女性と、公的難民救済機関の優越を目指す幹部職員は、かつての学友でした。2人とも正義を行っているのですが、世界は共感だけでも、大儀だけでも動かないようです。

「生まれ変わり」
人類を支配した異星人が犯罪者を処罰する方法は、犯罪に関わった意識のみを消去する「生まれ変わり」というものでした。しかし個人の意識を機能的に分割することなど可能なのでしょうか。生まれ変わって異星人の愛人となり、人類の犯罪捜査に携わる男性は、自分から失われたはずの記憶に愕然としてしいまいます。

介護士
介護ロボットに身を委ねた老人は、ロボットの背後にいる存在に気づいてしまいます。老人介護問題に南北問題を加味した作品です。

「ランニング・シューズ」
靴工場でパワハラに苛まれた末に事故にあったベトナム人少女に奇跡が起こります。彼女の意識はシューズに乗って太平洋を渡り、アメリカ人少年のもとにたどり着くのですが・・。

化学調味料ゴーレム」'
宇宙船に乗り込んだ10歳のユダヤ人少女は、船倉に隠れ潜んでいるネズミたちを退治して、植民惑星の生物汚染を除去するよう、神から依頼されます。神はゴーレムを製造してネズミ退治をさせるよう、少女に命じるのですが・・。ユーモアたっぷりの作品です。

「七度の誕生日」
環境保護に熱心だった母親から7歳の誕生日をスポイルされた少女は、アップロードされて深宇宙へと向かい、49歳、343歳、2401歳、11万歳、82万歳、はるかはるか遠い未来の誕生日にも、母親や自分の娘たちとの関係を思い出すのです。人類や文明が変化しても家族の絆は残るのでしょうか。美しい作品です。

「神々は鎖に繋がれてはいない」
「神々は殺されはしない」
「神々は犬死にはしない」
直接結びついている3つの短編の主人公は、父親を失ったばかりのマディーという少女。なぜか彼女に絵文字でチャットしてくる存在は、何者なのでしょう。やがてそれは死の直前にアップロードされていた父親の意識だということが判明するのですが、彼は「霊魂の世界」で人類に悪意を抱く同類の存在たちと闘っていたのです。やがてマディーの前に、妹と名乗る存在が現れ・・。情感豊かなポスト・ヒューマン作品です。

2019/6