りぼんの読書ノート

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プロジェクト・ヘイル・メアリー 上(アンディ・ウィアー)

火星にひとり残された人間のDIY的サバイバル生活を描いた『火星の人』や、月面基地でのミッション・インポッシブルを描いた『アルテミス』の著者の新作は、地球の存亡をかけた大プロジェクトでした。タイトルの「ヘイル・メアリー」とは「アヴェ・マリア」のこと。アメフト用語で、負けているチームが逆転を期して放つ成功率の低いロングパスのことだそうです。

 

未知の物質によって太陽に異常が発生。どうやら太陽光を貪って繁殖する微小な宇宙生命体の超大軍が、太陽と金星の間を往復しながら繁殖を繰り返している模様。ほとんど水なのに「E=MC2」レベルのエネルギーを体内に蓄積する、アストロファージと名付けられたこの生命体は隣接する恒星に転移しながら、まるでウィルスのように感染を広めているのです。このままでは地球は氷河期に突入して、全人口の半数が死に絶えるまで19年しかかかりません。太陽を救う手がかりを求めて、感染しながらも光量を保っている恒星タウ・セチに向け、人類は恒星間宇宙船を送り出すのですが・・。

 

物語は3人の乗組員のうちで唯一人口冬眠から生き残った化学者グレースが、朧げな記憶を取り戻しつつここまでの経緯を振り返る形式で綴られています。アストロファージをエネルギーとする恒星間宇宙船の建造。サハラ砂漠太陽光パネルで覆い尽くしてアストロファージを繁殖させるとか、地球の冷却を遅らせるために南極氷河を溶解させて温暖化を進めるとかのダイナミックな展開は、ハードSFの醍醐味でしょう。

 

ところで宇宙船に乗り込む前のグレースは、一介の高校教師に過ぎませんでした。そんな人物がなぜ人類の命運を握るクルーに選ばれたのか。彼が有する資質がどのようにして発揮されるのか。上巻の後半からは驚愕の展開が待っています。はたして人類は救われるのでしょうか。そしてアストロファージの存在はどのような謎を秘めているのでしょうか。下巻まで一気呵成の展開です。

 

2023/8