りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

刺青の男(レイ・ブラッドベリ)

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1951年に出版された著者初期の短編集ですが、人間心理と技術発展の矛盾をテーマとする作品が多く含まれており、決して古びてはいません。「刺青の男」の全身に彫られた刺青が動き出して18の物語を紡ぎ出し、最後には聞き手の未来に関する物語が現れるとの構成になっています。 

 

「草原 

両親が知らない間に子供部屋がサバンナとなり、猛獣も登場。まるで「ジュマンジ」のようです。 

 

「万華鏡 

ロケットが爆発してそれぞれ異なった方向に放り出された乗員たちの会話も、やがて途切れてしまいます。地球の大気圏に突入して燃え尽きた男は、流れ星のように見えたのでしょうか。「サイボーグ009」第1部のラストに使われた場面ですね。 

 

「形成逆転 

愚かな戦争で廃墟となった地球を逃れた少数の白人がやってきたのは、20年前に黒人たちが開拓した火星でした。もちろん黒人たちは、ここで逆人種差別は起こすほど愚かではありません。 

 

「街道 

日頃は誰も通らない街道を、車の群れが列をなして通りすぎたのには、戦争という理由があったのです。現代では来るまでの都市脱出など不可能ですね。 

 

「その男 

常に人類の先回りをして宇宙の惑星に到着するという全能の男とは、まさか「あの人」なのでしょうか。 

 

「長雨 

金星で遭難した宇宙船乗組員が、太陽ドームなるレスキュー小屋を目指して歩くうちに、次第に狂気に支配されていきます。『ウは宇宙船のウ』にも収録されていた短篇です。 

 

「ロケット・マン 

宇宙飛行士の父親が命を落とした星など、見たくはありません。でもその星は太陽だったのです。 

 

「火の玉 

肉体を捨てて火の玉状となった火星人は、神に近い存在になったのでしょうか。 

 

「今夜限り世界が 

世界が終るという夜でも、いつも通り平凡な一日であって欲しいものです。 

 

「亡命者たち 

この短篇も『ウは宇宙船のウ』に収録されていました。科学文明が支配する世界では、神々となっていたフィクション作家たちでも生き延びることはできないのでしょうか。 

 

「日付のない夜と朝 

周囲数億キロに渡って何も存在しない場所を飛ぶロケットにいると、全ての見当識を失うのかもしれません。自分自身の存在すらも。 

 

「狐と森 

核戦争が起きた未来から、平和な過去に亡命してくることなど許されません。当局の捜査能力は完璧なのです。 

 

「訪問者 

火星で孤独な生活を送っている隔離患者たちのコミュニティに、地球の都市を再現してみせる超能力者が現れて、人々は喜びます。しかしそれが悲劇を引き起こしてしまうのです。 

 

「コンクリート・ミキサー 

平和な地球を侵略にきた火星人の軍隊を迎えたのは、人々の大歓迎でした。平和ほど退屈なものはないのでしょうか。 

 

「マリオネット株式会社 

身代わりロボットを購入して妻から自由になろうとした男でしたが、奥さんのほうが一枚上手で先をいっていたようです。 

 

「町 

地球人に侵略されて住民を皆殺しにされた町は、地球人に復讐する機会を2万年も待っていたのです。 

 

「ゼロ・アワー 

地球侵略のために子供を使うとは残酷なものですが、すべての侵略行為とは、未来を担う子供たちの洗脳を伴うものかもしれません。 

 

「ロケット 

人類が夢にまで見た宇宙時代が到来しても、先立つものはお金なのです。宇宙旅行の権利を譲り合う優しい家族のために、父親はあることをするのです。心温まる物語です。 

 

2019/8