りぼんの読書ノート

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プロジェクト・ヘイル・メアリー 下(アンディ・ウィアー)

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の目的は、光エネルギーを貪って繁殖する宇宙生命体アストロファージから太陽を救うこと。その手がかりを求めて人類は、アストロファージの影響を免れている恒星タウ・セチに向けて恒星間宇宙船を送り出します。しかし全人類から選ばれた3人のクルーのうち、人口冬眠から目覚めたのは一介の高校教師であった化学者グレースのみ。

 

『火星の人』や『アルテミス』のような孤独なサバイバルゲームが始まるかと思いきや、今回のミッションにはバディが登場するのです。しかもその相手はエイリアン。ロッキーと名付けたエイリアンもまた、アステルファージに襲われた故郷を救う任務を負ってタウ・セチにやってきていたのです。しかも仲間を全て失っていることまで、グレースと同じ状況に置かれていました。同じ目的のために協力しあう2人でしたが、意思や概念の疎通が可能になるまでの過程が良く書けています。このために主人公を高校教師に設定したのですね。

 

化学者のグレースと、エンジニアのロッキーの組み合わせは、ミッション遂行のために最適な組み合わせでした。さすがに深宇宙の恒星近辺では既存技術によるDIYは不可能だったようで、未知のテクノロジーも用いられていますが、基本は『火星の人』と一緒ですね。マークが語っていたように「科学がプロットを作りだす」のです。

 

アステルファージがもたらす災禍を退ける方策や、アステルファージが近隣宇宙にもたらしたものの推察こそハイパーSF的な設定ですが、それ以外の課題は具体的なのです。近接できない惑星からどうやって試料を採取するのか。その物質の密閉や改変はどのようにして可能になるのか。人類を救う鍵をどのようにして地球に届けるのか。本人が地球に帰還するための燃料や食料をどのように調達するのか。宇宙空間で行方不明になったロッキーの宇宙船をどうやって見つけるのか。科学的な推論と実験を積み重ねて、直面する問題を解決していく過程がそのまま小説になっていて、しかもおもしろいなんて!

 

群像劇だった『アルテミス』は少々ドタバタ感がありましたが、本書は『火星の人』をスケールアップした作品であり、想像の斜め上を行くラストまで一気読みでした。

 

2023/8