りぼんの読書ノート

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吾輩は猫画家である(南條竹則)

『酒仙』で1993年に日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、中国関連の幻想小説やグルメ小説を書いている著者ですが、実はれっきとした英文学者です。その一方で猫好きでもある著者が、19世紀末の英国で「猫絵描き」として有名だったルイス・ウェイン氏の作品と生涯を紹介する本を書きました。

 

吾輩は猫である』の第2節に、苦沙弥先生が画家から年賀状を受け取る場面があります。そこには「活版で舶来の猫が四、五匹ずらりと行列して勉強そしており、その内の一匹が席を離れて西洋の猫じゃ猫じゃを踊っている」とあったとのこと。実はその絵葉書こそ本書の表紙になっているルイス・ウェインの作品だったようです。ドイツの作家ホフマンの『牡猫ムルの人生観』という小説と並んで、作家・夏目漱石の誕生に一役かった人物と思うと親近感が湧いてきます。

 

1860年にロンドンで生まれたルイスは、美術学校を卒業して教師となったものの、早くに父を亡くしたこともあって、フリーの画家となりました。彼が描いた擬人化された猫の絵は当時続々と創刊されたイラスト雑誌や絵葉書で人気を博し、1981年には「ナショナル・キャット・クラブ」の会長にも就任したとのこと。しかし当時は版権意識も低かったこともあり、母と5人の妹を養うルイスの生活は苦しかったようです。アメリカの新聞王ハーストに招かれて渡米したものの、投資に失敗して財産を失い、晩年は精神を患ったまま亡くなりました。人々から忘れられたルイスが「再発見」されたのは1960年代以降のことでした。

 

ルイスの生涯が幸福であったかどうかは別として、彼が描いた猫たちは永遠の生を得て、今も生き生きと遊び続けています。ネコ好きの方には、多数のイラストが含まれている本書をお勧めします。ついでながら、イギリスでイヌと比較して低かった、ネコの地位を押し上げたのもルイスの功績だったと著者は述べています。

 

2023/8