りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サイモン、船に乗る(ジャッキー・ドノヴァン)

1949年に起こった「揚子江事件」のことは知りませんでした。第二次大戦後の中国における国共内戦のさなかに起こった、中国人民解放軍による英国軍艦アメジスト号抑留事件です。揚子江を航行中に突然砲撃を受け、甚大な人的・物的被害を被ったうえに100日あまりも河岸に抑留され、ようやく決死の脱出に成功したという事件のこと。当時、国民党を中国の合法的な政府としていた英国政府と中国共産党の間には国交もなく、互いに謝罪を求めあった交渉は、妥結の見込みが立たなかったようです。

 

この事件を広く伝えたいと思った著者は、「猫が一人称で語る小説」という形式を採りました。主人公は、実際にアメジスト号に乗り込んでいた黒ネコのサイモン。抑留中の乗組員を元気づけ、害獣のネズミを駆除し続けたサイモンは、その功績で動物に対する勲章を受章しています。

 

文豪・夏目漱石のデビュー作のように、ネコが主人公の小説では「ネコ目線で人間の愚かさを揶揄する」傾向が強いのですが、本書のサイモンは「人間や動物の苦しみがわかる怖がりで優しいネコ」というキャラクター。アメジスト号が香港停泊中に水兵によって持ち込まれてそのまま居付いた幼いノラネコは、船で先輩であったテリア犬のペギーとも良い関係を築きあげ、波乱万丈の一万マイルもの船旅を成し遂げました。今でもYoutubeで「simon the cat HMS amethyst」と検索すると、サイモンの雄姿を見ることができますよ。

 

2023/6