りぼんの読書ノート

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蒼天見ゆ(葉室麟)

著者の「秋月シリーズ」の2作目は幕末から明治初期の物語。西南戦争に先駆けて明治9年に起こった「秋月の乱」についての叙述もありますが、それは本筋ではありません。本書は、明治政府によって仇討が禁止された後の明治13年に起こった「日本最後の仇討ち」を題材にした作品であり、父親の仇を討った臼井六郎も、討たれた一瀬直久も、ともに元秋月藩士だったのです。

 

秋月藩の執政として幕末の困難な時期を乗り切り、薩長の志士たちとも面識が深かった臼井亘理が、秋月の自宅で尊王攘夷を唱える干城隊によって惨殺されたのは慶応4年のこと。まだ明治への改元は行われていないものの、前年には大政が奉還され、幕府軍鳥羽伏見の戦いにも敗れて、もはや天下の大勢は決しています。薩長ですら攘夷の看板を下ろしている中での襲撃にはは、藩内に渦巻いていた嫉妬や憎悪が理由であり、そこには一分の大義もありません。遺族の訴えを受けた宗藩の福岡藩は、戊辰戦争のさなかに事を起こすことを避けて臼井派に冷酷な処分を行います。

 

当時9歳であった遺児・六郎は仇への復讐を固く誓ったものの、明治6年には仇討が禁止されてしまいます。主犯であった一瀬直久が明治政府で判事となっていることを知った六郎は上京し、山岡鉄舟に弟子入りしたものの、己の生き方に迷い続けるのでした。彼はどのようにして迷いを断ち切って遺恨を晴らしたのでしょう。そして彼の「その後」の人生は、どのようなものだったのでしょう。

 

タイトルは幼い六郎が、生前の父親から聞いた「苦しい時には青空を見よ」との教えからきています。しかもそれは、亘理が晩年に出逢った間余楽斎(間小四郎)から授けられた言葉でした、『秋月記』の主人公ですね。この2作品の連続性と時代の大変化も、強く印象に残りました。

 

2023/6