フランス史を題材に取った小説では第一人者である佐藤さんが綴った、幕末の物語。不思議に思った人も多いでしょうが、佐藤さんは山形県鶴岡市の出身なんですね。鶴岡を城下とする庄内藩が、戊辰戦争で会津と並ぶ朝敵とされながら藩内での戦を免れ、藩自体もほぼ無傷で残った「奇跡」を描いたというのも、ある意味当然なのでしょう。
物語は「新撰組」と「新徴組」の分裂からはじまります。庄内出身の勤王家・清河八郎が幕府を説いて設立した「浪士組」は、攘夷と佐幕を巡る思惑の違いから、京に残った「新撰組」と江戸に帰った「新徴組」とに別れるのですが、後者は庄内藩預かりとなって、江戸の市中警備を命じられます。後に江戸の薩摩藩邸焼き討ちの中心になったのも「新徴組」でした。
本書は新徴組隊士で沖田総司の義兄、沖田林太郎を語り手としていますが、実質的な主役は、東北諸藩の中でいち早く西欧式の軍を育てた酒井吉之丞。後に玄蕃を名乗り西軍から「鬼玄蕃」と恐れられた人物です。新徴組こそが、彼の構想の中核となったのですね。
ここで描かれる吉之丞は、「鬼玄蕃」の名乗りが似合わない天才肌で病弱の青年。会津防衛戦は仙台・米沢両藩に委ね、奥羽越列藩同盟から離脱した秋田藩に攻め入った北方戦線で連戦連勝。これが敗戦後の寛大な措置に繋がっていくのです。
2010/11