りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

トータル・リコール(フィリップ・K・ディック)

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映画のリメイク版に合わせた出版でしょう。大森望さんのセレクションによるディックの傑作短編集ですが、これまで未収録の作品も2作含まれています。読者の予測を軽々と超越してしまう著者の独自な発想は、後期の作品ほど強まっているように思えます。

トータル・リコールバーチャル火星旅行の記憶を求めた男は、火星で起きた事件の記憶を封じ込められていた秘密捜査官でした。男が少年時代から抱いていた、誰知らぬ間に地球を救ったという強い願望を代わりの記憶として埋め込もうとしたのですが・・。シュワちゃん主演映画の後半は原作にはないオリジナルだったんですね。

「訪問者」鉱山に潜って核戦争を生き延びた人々が地上で出会ったのは、放射能に満ちた世界を生き延びた突然変異人種たちでした。残された人々を地球から救出するロケットの乗務員は、自分たちはもはや地球人ではなく、地球への訪問者であるにすぎないと言うのです。

「世界をわが手に」人類が宇宙で唯一の知的生物ではないかとの失望が蔓延した時代に流行したのは、ミニ地球の上で生命を発生させて進化させるという世界球ゲームでした。しかし、ミニ世界の造物主となる行為など許されるのでしょうか。

「ミスター・スペースシップ」膠着状態に入った宇宙戦争を打開策として考案されたのは、人間の脳を移植させた宇宙戦艦でした。自分の脳を宇宙船に移植することに応じた老教授は、戦争という袋小路に陥った人類を救うために、アダムとイブからやり直すというアイデアを実行に移します。

「非(ナル)O」すべての価値体系から自由な超論理の持ち主たちの究極の目的は、宇宙をひとつの純粋エネルギーに変換することでした。彼らの夢は、水爆からコバルト爆弾、地球爆弾、太陽爆弾、銀河爆弾、宇宙爆弾へと膨らむのですが・・。

「フード・メーカー」テレパシー能力を持つようになったように者たちは人類の進化形なのでしょうか。思考波を防御するフードの製造者が握っていた秘密とは、彼らは単なる進化の袋小路だったという真実だったのです。

「マイノリティ・レポート」プレコグ(予知能力者)の予言によって犯罪者は未然に逮捕されるようになった世界で、次の殺人者として名指しされたのは犯罪予防局の局長でした。そこには犯罪予防局の権威を失墜させようとする軍の陰謀が絡んでいたのですが、未来の時間軸における多数意見と少数意見の意味や、予言の実現性と無効化という命題を考察した作品になっています。トム・クルーズ主演で映画化されています。

他には、軍に徴用された男が偶然入手した極秘資料は男をテストする材料だったという「出口はどこかへの入口」、地下に潜った人類に代わって地表で代理戦争を行うロボットたちの陰謀を描いた地球防衛軍、人間に変身して人類支配を進める宇宙からの侵略者のトラップに引っかかった男の悲劇「吊されたよそ者」が収録されています。

2012/10