りぼんの読書ノート

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小説フランス革命7 ジロンド派の興亡(佐藤賢一)

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いよいよ第2部が始まりました。ルイ16世が幽閉されて王権を停止される「8月10日事件」を境にしてフランス革命は新しい段階へと入っていくことになりますが、事件の前夜である1792年の1月から8月はじめまでを描いた第7巻は、2人の道化役の動きから幕を開けます。

ひとりは表紙を飾るマノン・ロラン夫人。「自由よ、汝の名のもとで なんと多くの罪が犯されたことか」との名言で知られる才媛ですが、佐藤さんは彼女を、かつてルイ15世を操ったポンパドール公爵夫人に憧れ、革命で名を上げた女性たちに嫉妬し、マリー・アントワネットをライバル視する虚栄心の持主として描き出します。彼女の望みは、自分を思慮深く聡明な人物と見せながら、男たちを操って国政を動かすこと。気の弱い夫ロラン氏はもちろんのこと、彼女のサロンに集まるジロンド派の大立者ブリソやペティオンらに開戦をささやきかけます。

もうひとりの道化役はルイ16世。ヴァレンヌ事件でフランス脱出に失敗したものの、まだ王権は健在です。立憲王制維持に努めるフィヤン派内閣が戦争に反対するのに対し、オーストリアに戦争を仕掛けて敗れることが旧体制の完全復活に結びつくという売国的陰謀を巡らせるのです。党利党略に明け暮れる議会と行政府が、責任不在のまま仕掛けた戦争の緒戦で敗退したフランスの内政は、混乱を極めていきます。

この時期ロベスピエールは孤立しています。しかし金持ちと貧乏人を差別しない普通選挙の実現などの社会的平等の実現を訴え続ける一貫した彼の主張は、サン・キュロットと呼ばれる下層市民やパリに集結した連盟兵士たちに対して影響力を持ち始めていくのです。本人は、一発の銃声に怯えて穴倉に閉じこもってしまうほど臆病なんですけどね。

6月20日のデモで王の寝室にまで踏み込んだ市民たちは、暴徒たちと乾杯したルイ16世にいなされて不発に終わりますが、食糧不足に苦しむパリが一触即発状態にあることに変わりはありません。軍司令官に任命されたラファイエットの愚行や、フランスを脅迫するかのようなブラウンシュヴァイク宣言がそれに追い討ちをかけます。そして運命の8月10日が・・。

相変わらず臨場感に満ちていて楽しく読めますね。続編が待ちきれません。

2012/10