りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

レッドゾーン(真山仁)

イメージ 1

「ハゲタカ・シリーズ」第3作では、莫大な外貨準備高を元手に国家ファンド(CIC)を立ち上げた中国が、低迷するアメリカのBIG3救済をからませながら日本最大の自動車メーカーに買収をしかけてくるという、世界規模での戦いが描かれます。

経済合理性よりも政治的意図を優先させた投資を行う巨大ソブリン・ファンドの登場は、これまでの投資原則を一変させてしまうんですね。まずは中国の若き買収王・賀一華がアカマ自動車(もちろんトヨタがモデルです)にTOBをかけさせるのですが、これはアカマに揺さぶりをかけるための前哨戦にすぎません。

アカマの買収防衛策は株価上昇による時価総額の最大化と、莫大な納税による政府保護期待という、いわば王道なのですが、金に糸目をつけず手段も選ばない相手に対しては、勝手が異なります。折りしも創業者一族のバカ息子が社内クーデターを起こそうとする動きも重なったこともあって、アカマは最後の手段としてハゲタカ鷲津にホワイトナイトとなることを求めるのですが・・。

まさか最後に、鷲津の師匠であったメガファンドKKLの総帥であったクラウスが登場してくるとは思いませんでしたが、香港の大富豪一族が果たしていた役割も意外なものでした。かつて鷲津の右腕として活躍したアランの死の真相も明らかになるのですが、ここまでくると経済小説の枠を超えて、スパイ・謀略小説のようですね。

前巻で曙電気を救った企業再生人・芝野は、曙電機の役員を辞任して大阪の町工場の再生に乗り出します。本書ではサブストーリーにすぎませんが、週刊ダイヤモンドに連載中の第4部では活躍しているとのこと。技術力を持った中小企業の再生にこそ、日本経済の未来があるのかもしれません。ところで、日光のホテルの彼女は出番がありませんでしたが、どうなっちゃったのでしょう。

いずれにせよ「赤い隣国」との付き合い方は、政治的にも経済的にも難しい局面に入っていきそうです。かといって互いに無視して良い相手ではありませんし、悩ましいものです。とりあえず本書では、鷲津の超絶手腕と意外な愛国心が楽しめますが・・。

2012/10