りぼんの読書ノート

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順列都市(グレッグ・イーガン)

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21世紀半ば。記憶や人格をコンピューターにダウンロードさせることは可能になっています。本書が1990年代に書かれたことは割り引いても、これだけなら今どき珍しくもない設定です。しかし、本書を話題作としたのは、その擬似生命体に宇宙の寿命より長い「不死性」を与えたことなのです。

そんなことを可能とする「塵理論」や「エデンの園コンフィギュレーション」についての詳細説明は、すでに多くの方が書いていますので、詳細は記しません。要するにシミュレーションとは数列であり、無限の大きさを持つ数列は宇宙の寿命を越える期間の仮想世界を記述できるということなのでしょう。しかもそのリソースは現実世界だというのです。映画「マトリックス」の、緑色に耀きながら流れ落ちる情報を思い出しました。

主な主人公は5名。「塵理論」発見者のポール・ダラム。彼のスポンサーとなる大富豪トマスと、「順列都市」に寄生するピーとケイト。そして人口宇宙内に進化の可能性を持った原始有機体を設計したマリア・デルカ。彼女は希望したわけでもないのにコピーされ、はるか未来において「順列都市」が危機を迎えた際に目覚めさせられます。彼女の設計から進化して知性を獲得したランバート人の存在が、危機に関係してるというのです。

さて本書は、もうひとつの重要な理論を提示するのですが、ハードSFのファンならもうお馴染みですね、。宇宙消失で「観測者の視点」として登場し、万物理論で「人間宇宙論」へと発展することになる、あの理論です。「順列都市」の不死性は揺らいでしまうのでしょうか。

不死の理論を構築したイーガンですが、無限の時間を生きる人間の心理については、あまり力を注がなかったようです。どの主人公も「永遠の生」を望んでいるようには思えませんでしたので。

2014/6