りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夢幻諸島から(クリストファー・プリースト)

イメージ 1

限りなき夏という短編集に、「夢幻諸島シリーズ」に属する作品が数編あったので、本書も連作短編集かと思ったのですが、違いました。「夢幻諸島にある島々のガイドブック」という体裁をとって、ひとつの世界観を表現した「長編」だったのです。

チェスター・カムストンという署名が入った長い序文は、時間勾配によって生じる歪みの中にある夢幻諸島の地政学的説明です。次いでアルファベット順に島々の説明がなされるのですが、恐怖の毒虫スライム、人間を不死化する医療技術、不気味な死せる塔など、各それぞれの島々に特有なものの紹介の間に複数の人物の物語が入り込んでくるのです。

社会理論家のカウラー、記者のウィラー、画家のバーサースト、風の専門家モイ、作家のカムストンとケイン、トンネル掘りアーティストのヨー、パントマイム師殺害事件などの物語が、互いに交錯していきます。しかも「時間勾配」のせいなのでしょうか。それぞれのエピソードの時系列が混乱しているようなのです。

そもそも、本書の序文を書いたカムストンの葬儀の場面すら含まれているのです。始めのころで一度だけ言及された「不死化」がキーワードのようにも思えるのですが、それだけでは説明がつきません。序文を含めて、本書の全てが「信頼ならざる語り手」によるとでもいうのでしょうか。

奇妙なパラレル・ワールドを描いた双生児の著者の仕掛けた謎に混乱させられるのは楽しいのですが、モヤモヤ感が解決しないままというのは困りものです。

2014/1