りぼんの読書ノート

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三体3 死神永生 上(劉慈欣 リウ・ツーシン)

中国SF界というより世界のSF界にとっての金字塔である「三体シリーズ」の最終第3部です。異星人とのファーストコンタクトによる人類の危機の始まりを描いた第1部、フェルミパラドックスに対する見事な回答である黒暗森林理論を用いた抑止計画に至る第2部に続く本書は、宇宙の熱的死と再生への希望までを描く壮大な物語でした。小説的には暗中模索状態が続く第1部が優れていますが、著者が本当に書きたかったのは本書なのではないでしょうか。

 

地球侵略の意図を明らかにした三体文明に対して、第2部の「面壁計画」の裏でもうひとつの対応策が進行していました。その「階梯計画」とは、迫りくる三体艦隊に人類のスパイを送り込むこと。連続する一千回の核爆発で巨大で軽量な宇宙帆船を光速の1%まで加速して送り込める質量は、わずが200グラム。凍死状態の脳だけを送り込み、三体星人の科学力での再生を期待するという奇想天外なものでした。選ばれたのは若き女性航空エンジニア程心の学生時代の友人で、病死寸前であった雲天明。しかしこの計画の成否はずっと不明だったのです。

 

200年後、冷凍睡眠から目覚めた程心を待っていたのは「面壁計画」によって危機が抑止された時代。彼女を待っていたのは、抑止計画の発案者としてそのまま重力波送信の執剣者となっていた羅輯(ルオ・ジー)の後任となること。人類の命運は、永遠に訪れないかもしれないし、次の1秒で全てを決するかもしれない瞬間に備え続ける、彼女の判断に握られることになったのですが・・。

 

一方で帰還命令に背いて深宇宙へと逃亡した宇宙戦艦「藍色空間」と、それを追う新造艦「万有引力」は、高次元空間の名残りとおぼしき「4次元のかけら」に遭遇します。宇宙論研究者の関一帆(グァン・イ―ファン)は、その体験から「黒暗森林」よりもさらに高次元の「宇宙の暗い秘密」を予想するのです。程心と雲天明と関一帆のたどる運命が、遠い未来で交わった時に何が起こるのでしょう。そしてそれは人類をどこへ連れていくことになるのでしょう。下巻で展開される物語は、イーガンの『ディアスポラ』レベルの壮大なスケールであるとだけ言っておきましょう。

 

ところで三体星人が尖兵として地球に送り込んだ11次元AI量子の智子(ソフォン)が、本書では女性姿のアンドロイドボディを有する智子(ともこ)として登場します。その名前といい、程心を茶席に招き和服姿で以心伝心的な対話をしたり、人類に対する破壊神として忍者姿で登場したりと、どうみても日本をイメージせざるを得ないのです。それは著者の日本文化に対する関心の深さの現われなのか、それとも日本人を理解不能な存在と思っているのか、気になるところです。著者は日本のTV企画「世界SF作家会議」に出席していますので、前者であって欲しいものです。

 

2023/1