人類の希望を託した4人の「面壁者」のうち3人までもが「破壁者」によって戦略を暴かれ、無効化されています。最後の1人となった中国人天文学者の羅輯は、宇宙に向けて謎めいた「呪文」を投げかけた後に人工冬眠に入り200年後に覚醒。人類を遥かに凌ぐ三体文明の宇宙艦隊が地球に到達するまで、残り時間は210年となっています。
人類は人口が半減するほどの「大峡谷時代」を乗り越えて、新時代を築き上げていました。既存技術の延長線上ではあるものの、宇宙エレベーターを実用化し、三体艦隊を上回る光速の1.5%の速力を誇る巨大宇宙戦艦群を建造。しかし三体艦隊本体に先行して太陽系に到着した、たった1機の探査機「水滴」によって、人類の楽観ムードは一気に吹き飛んでしまいます。中性子星レベルの分子配列を有する「水滴」は破壊不能であり、単純な体当たり戦術によって、人類が誇る数千隻の宇宙艦隊が瞬時にして潰滅してしまったのです。そんな絶望的な状況下で、既に一般人に格下げされていた羅輯の「呪文」は効力を発揮するのでしょうか。
彼が宇宙の公理として打ち立てた「黒暗森林」理論は、極めてシンプルです。「文明は生存を求めて拡張する」ことと「宇宙における物質の総量が一定である」という2つの公理と、「猜疑連鎖」と「技術爆発」という2つの重要な概念から導き出された理論は、明快でわかりやすいもの。地球外文明の存在を示す痕跡と全く遭遇できていない「ファルムのパラドックス」への解答にもなっていますね。この理論に基づく「呪文」の効力が、タイミング的に間に合うかという点も重要なポイントでしたが、そこは小説ですからね。
「三体シリーズ」は3部作です。最終巻「死神永世」とはどのような物語となるのか、楽しみで仕方ありません。本書にも登場したアシモフの『銀河帝国の興亡 3部作』をワクワクしながら待ち望んでいた頃の気持ちを思い出しました
2023/1