りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

とわの文様(永井紗耶子)

主人公は江戸西河岸町の呉服屋・常葉屋の一人娘・とわ。実は彼女は常葉屋の実子ではないのですが、いったい誰がどんな事情でとわを常葉屋に預けたのでしょう。そして彼女が年ごろになったある日、今度は女将で母親の律が突然姿を消してしまいました。本書の中ではとわの出自も律の行方も謎のままですので、この作品はきっとシリーズ化されるのでしょう。

 

その一方、とわの兄で芝居好きの若旦那・利一は、顔の広さで仕事に役立つこともあるのですが、面倒ごとを背負い込む名人もあるのです。やくざ者に追われる妊婦を連れてきたり、常磐津の師匠との仲を疑われて暴漢に襲われたり、不忍池の茶屋で人気を博している茶汲み娘のもつれた姉妹関係を解きほぐそうとしたり。善良で聡明なとわはいつも事件に巻き込まれてしまい、兄に手を焼いているのですが、兄妹の絆は深いようです。

 

2023年7月に『木挽町のあだ討ち』で直木賞を受賞した著者の最新作です。時代小説や歴史経済小説を多く書かれているので、「お江戸お仕事人情ミステリ」は得意分野ですね。またひとり、優れた時代小説の書き手が誕生したようですが、ほかのジャンルでも書いて欲しい作家です。

 

2023/9