りぼんの読書ノート

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落花狼藉(朝井まかて)

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江戸時代を題材とする小説は数多くありますが、安定の江戸中期や激動の幕末を描いた作品と比較して、江戸初期の物語はそれほどくないように思います。本書は、元吉原に遊郭が許可された1617年から、明暦の大火後に新吉原へと移転する1658年までを中心とする、遊郭町の黎明期を描いた物語です。

 

物語の主役は、遊女屋の女将である花仍(かよ)。大手遊女屋の西田屋に拾われて娘分として育てられた後に、遊女屋の主人である庄司甚右衛門の妻になった女性です。甚右衛門が中心になって江戸中の遊女屋をとりまとめ、幕府に陳情を繰り返した結果、江戸で唯一の「売色御免」の傾城町が認められたもののまだまだ前途多難。公許は得ても町の普請は自力で行わねばならず、非公認で営業する歌舞伎の踊子や湯女らに悩まされ、後ろ盾であるはずの奉行所には次々と難題をつきつけられるのです。ついには日本堤への移転を命じられ、新吉原を築き上げるまでの物語が経糸ですね。

 

一方の横糸は、花仍の成長物語。遊女たちと同年代だった花仍は、太夫や格子女郎を育て、傾城商い特有の華々しさと残酷さを経験していくことで、一人前の女将へと成長していきます。そしてその過程で、吉原特有の決め事やしきたりも定められるのです。やがて吉原は江戸の名所となり、江戸文化の一翼を担うほどに洗練されていくのですが、本書の範囲ではまだ萌芽でしかありません。

 

黎明期の物語は明るいですね。主人公が年老いて亡くなっても、次代を担う者たちが登場してくることが約束されていますので。どことなく閉塞感が漂う現代であっても、新しい何かが生まれてくることを期待したいものです。

 

2022/3